皮膚科研究と診療トピックについて確認できる池袋サンシャイン通り皮膚科の院内

Dermatology Research Notes

GLP-1薬と脱毛リスク最新研究と抜け毛の確認ポイント

GLP-1受容体作動薬の使用中に「抜け毛が増えた」と感じても、薬が直接の原因とは限りません。2026年のBMJ研究では、2型糖尿病の成人でGLP-1受容体作動薬を開始した群に、比較薬より非瘢痕性脱毛の診断が多い関連が示されました。一方、絶対リスクは低く、診療録を用いた観察研究のため因果関係は確定していません。本記事では、研究結果を過大評価せず、減量、食事、持病、他の脱毛症を含めて確認する方法を整理します。

監修: 吉井恭平GLP-1薬使用中の脱毛・抜け毛最終更新 2026-07-25

まず押さえたい3つの要点

01

2026年のBMJ研究では、2型糖尿病成人のGLP-1受容体作動薬開始群に、比較薬より非瘢痕性脱毛の診断が多い関連が示されました

02

ハザード比1.37や1.68は「使用者の37%・68%が脱毛する」という意味ではなく、研究著者も絶対リスクは低いとしています

03

国内添付文書ではウゴービとゼップバウンドに脱毛症が1~5%未満として記載されていますが、薬を自己判断で中止せず処方医へ相談します

この記事の結論

GLP-1薬と脱毛には関連を示す研究がありますが、薬が直接の原因と証明されたわけではありません。2026年のBMJ研究は2型糖尿病成人の診療録を比較した観察研究で、GLP-1受容体作動薬開始群の脱毛診断はSGLT2阻害薬群より1.37倍、DPP-4阻害薬群より1.68倍でした。ただし絶対リスクは低く、診断コード、残余交絡、対象集団などの限界があります。急な減量に伴う休止期脱毛、AGA、円形脱毛症、鉄欠乏や甲状腺疾患なども確認し、自己中断せず相談します。

  • 研究は関連を示したもので、個人の因果関係を確定する検査ではありません
  • 抜け毛の量だけでなく、びまん性か円形か、頭皮症状があるかを確認します
  • 開始日、用量変更、体重推移、食事、他の薬を記録して処方医と皮膚科へ共有します

GLP-1薬を自己判断で中止・減量しないでください

脱毛の原因は一つとは限らず、糖尿病や肥満症などの治療を急に変えることにもリスクがあります。処方医へ抜け毛の経過を伝え、薬の利益と不利益、体重変化、栄養状態、他の病気を確認して方針を決めます。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛、繰り返す嘔吐や脱水などがある場合は、脱毛の相談を待たず速やかに処方医へ連絡してください。

01 / Bottom Line

まず結論:関連を示す研究はありますが、薬が直接の原因とは断定できません

2026年7月にBMJへ掲載された研究では、GLP-1受容体作動薬を新たに開始した2型糖尿病の成人で、SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を開始した成人より、脱毛の診断が多い関連が示されました。関連は主に非瘢痕性脱毛でみられました。

ただし、これは薬を無作為に割り付けた臨床試験ではありません。診療録データから仮想的な比較試験を再現するtarget trial emulationという方法を用いた観察研究です。治療を選んだ理由、体重変化、栄養、病気の重症度など、記録だけでは調整しきれない違いが残る可能性があります。

研究著者は絶対リスクが低いとしています。したがって、「GLP-1薬を使うと高い確率で髪が抜ける」「抜け毛があれば薬の副作用である」とは言えません。個人では抜け方と時間経過を確認し、他の原因を含めて評価します。

  • 関連は示されたが、因果関係は確定していません
  • 対象は肥満症だけの集団ではなく、2型糖尿病の成人です
  • 絶対リスクは低く、ハザード比を発症割合と読み替えません
02 / BMJ 2026

BMJ研究の設計と結果:比較相手によってハザード比は1.37と1.68でした

研究はPenn Medicineの電子診療録を用い、2019年1月から2024年9月にGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬のいずれかを新規に開始した18歳超の2型糖尿病患者を比較しました。脱毛と脱毛症の型は診断コードで特定されています。

GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の比較は12,004人対15,221人、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の比較は11,964人対11,238人でした。背景因子を重み付けで調整した後、脱毛のハザード比はそれぞれ1.37と1.68でした。

非瘢痕性脱毛に限ると、SGLT2阻害薬比は1.53、DPP-4阻害薬比は1.72でした。感度分析とサブグループ解析でも方向はおおむね一致しましたが、negative control outcomeを使った補正後には関連が弱まりました。

比較
対象人数
脱毛のハザード比(95%CI)
GLP-1薬 対 SGLT2阻害薬
12,004人 対 15,221人
1.37(1.08–1.73)
GLP-1薬 対 DPP-4阻害薬
11,964人 対 11,238人
1.68(1.28–2.20)
非瘢痕性脱毛:対SGLT2阻害薬
同じ比較集団
1.53(1.18–1.97)
非瘢痕性脱毛:対DPP-4阻害薬
同じ比較集団
1.72(1.28–2.31)

ハザード比1.37は「37%の人が脱毛した」という意味ではありません

追跡期間中に診断へ至る速さを比較した相対的な指標です。個人の発症確率や、薬を中止すれば治る確率へ直接置き換えることはできません。

03 / Interpretation

研究の限界:診断コードの『脱毛』は原因や重症度まで同じではありません

診療録の診断コードは、皮膚科で統一した方法により毛髪数や重症度を評価した結果ではありません。受診した人だけが診断されやすいことや、医療機関へのアクセス、記録方法の違いも影響します。

GLP-1受容体作動薬を選ぶ患者と比較薬を選ぶ患者では、肥満の程度、体重減少、糖尿病の状態、併用薬、栄養状態などが異なる可能性があります。統計調整後も残余交絡を完全には除けません。negative control outcome補正後に関連が弱まった点も、未測定の違いが影響しうることを示します。

対象は一つの医療システムに属する2型糖尿病成人です。肥満症治療のみでGLP-1系薬を使う人、日本の患者、個別のセマグルチドやチルゼパチドへ同じ数字をそのまま当てはめることはできません。薬剤別、用量別、減量速度別の因果関係もこの研究だけでは分かりません。

  • 診断コードによる評価で、毛髪数や重症度の統一測定ではありません
  • 残余交絡を除けず、negative-control補正後に関連は弱まりました
  • 日本の肥満症治療や個別製剤へ直接一般化できません
04 / Differential

非瘢痕性脱毛とは:休止期脱毛、AGA、円形脱毛症などを分けて考えます

非瘢痕性脱毛は、毛包が瘢痕に置き換わって永久に失われるタイプではない脱毛症の大きな分類です。原因が一つという意味ではなく、休止期脱毛、男性型・女性型脱毛症、円形脱毛症など異なる病態を含みます。

休止期脱毛では、強い身体的・心理的ストレス、発熱、手術、出産、急な減量、摂取不足などの後に、時間を置いて全体の抜け毛が増えることがあります。AGAは生え際や頭頂部など一定の分布でゆっくり進み、円形脱毛症は境界の比較的はっきりした脱毛斑、眉毛・まつ毛、爪の変化を伴うことがあります。

赤み、強いかゆみ、痛み、膿、厚い鱗屑、光沢のある皮膚など頭皮所見がある場合は、炎症や感染、瘢痕性脱毛症を含む別の病気も検討します。見た目や抜け毛の本数だけで自己診断せず、頭皮を含めて確認します。

見え方・経過
考える候補
相談時に伝えること
頭部全体で急に増えた
休止期脱毛など
発症前数か月の減量、発熱、手術、食事
生え際・頭頂部が徐々に薄い
AGA・女性型脱毛症など
家族歴、以前の写真、進行期間
円形・まだらに抜ける
円形脱毛症、感染症など
眉毛・まつ毛・爪、広がる速さ
赤み・痛み・膿・強い鱗屑がある
炎症性・感染性・瘢痕性脱毛症など
頭皮症状、使用製品、受診歴
05 / Possible Factors

急な減量と食事は確認しますが、『栄養不足が原因』とも決めつけません

2026年の系統的レビューでは、GLP-1系治療と脱毛に関する報告を整理し、急速な体重減少や摂取不足が休止期脱毛へ関係する可能性を論じています。ただし、含まれた研究は薬剤安全性データベースや観察研究などが中心で、直接の機序や因果を証明したものではありません。

食欲が大きく低下して食事量が減った、短期間に体重が変化した、たんぱく質を含む食事がとれない、嘔吐や下痢が続く場合は処方医へ共有します。一方、自己判断で鉄、亜鉛、ビオチンなど複数のサプリメントを追加すると、過剰摂取や検査への影響が生じることがあります。

診察では、必要に応じて血算、鉄関連検査、甲状腺機能などを検討しますが、すべての人に同じ検査が必要とは限りません。月経、妊娠・出産、発熱、手術、慢性疾患、他の薬、家族歴を合わせて判断します。

体重減少の速さだけで原因を確定しません

薬を始めた時期と抜け毛に気づいた時期が一致しても、毛周期のため原因となる出来事から遅れて脱毛が目立つことがあります。数か月単位の経過を確認します。

06 / Japan Label

国内の適応と添付文書:商品名が似ていても目的は同じではありません

患者向けにはまとめて「GLP-1薬」と呼ばれることがありますが、国内の承認された目的は製品ごとに異なります。セマグルチド製剤では、オゼンピックは2型糖尿病、ウゴービは条件を満たす肥満症などが対象です。チルゼパチド製剤では、マンジャロは2型糖尿病、ゼップバウンドは条件を満たす肥満症などが対象です。

チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬であり、GLP-1受容体だけに作用する薬と同一ではありません。同じ成分でも商品名、適応、維持用量が異なります。「ダイエット薬」という一括した呼び方だけで、適応や安全性を判断しないことが重要です。

2026年7月25日に確認したPMDA電子添文では、ウゴービとゼップバウンドの「その他の副作用」に脱毛症が1~5%未満として記載されています。一方、オゼンピックとマンジャロの電子添文本文では「脱毛症」「脱毛」「毛髪」の記載を確認できませんでした。

この違いから、肥満症だけで起こる、糖尿病用製品では起こらない、製品間の発生頻度を直接比較できる、とは判断できません。同じ成分でも用量、対象集団、臨床試験、安全性情報の集積が異なります。添付文書の頻度とBMJ観察研究を別の情報として読み、個人の症状を評価します。

製品
主な国内承認目的
電子添文の脱毛症記載
オゼンピック(セマグルチド)
2型糖尿病
本文に記載を確認できず
ウゴービ(セマグルチド)
条件を満たす肥満症など
1~5%未満
マンジャロ(チルゼパチド)
2型糖尿病
本文に記載を確認できず
ゼップバウンド(チルゼパチド)
条件を満たす肥満症など
1~5%未満

適応外使用の可否をこの記事で判断しないでください

承認目的、保険給付、処方条件は同じではありません。現在の診断、製品名、用量、処方目的をお薬手帳や処方記録で確認し、処方医へ相談します。

07 / Next Steps

抜け毛が増えたとき:写真と時系列を残し、処方医と皮膚科で役割を分けます

最初に、薬の商品名、開始日、用量を変えた日、体重の推移、食事量、発熱・手術・強いストレス、出産、他の薬を時系列にします。抜け毛は同じ明るさと角度で頭頂部、生え際、側頭部を撮り、円形の脱毛、眉毛・まつ毛、爪、頭皮の赤みや痛みも確認します。

処方医には、糖尿病や肥満症など元の治療目的、薬の効果、胃腸症状、減量速度を共有します。皮膚科では、脱毛の分布、毛髪と頭皮の状態、AGA、円形脱毛症、休止期脱毛、感染症、瘢痕性脱毛症などを確認します。必要に応じて双方で情報を共有します。

急速に広がる円形の脱毛、眉毛・まつ毛の脱毛、頭皮の強い赤み・痛み・膿、光沢を伴う脱毛、全身症状がある場合は早めに相談します。薬の中止・減量・切り替えは、元の病気と脱毛の両方を評価して決めます。

  • 商品名・開始日・増量日・体重推移・食事・他の薬を記録する
  • 同じ明るさで頭頂部、生え際、側頭部を撮影する
  • 円形脱毛、眉毛・まつ毛、爪、赤み・痛み・膿を確認する
  • 処方医と皮膚科へ同じ時系列を共有し、自己中断しない
Clinic View

池袋でGLP-1薬使用中の抜け毛を相談したい方へ

池袋駅・東池袋周辺でGLP-1薬使用中の抜け毛を相談する場合は、薬の商品名、処方目的、開始日、増量日、体重推移、食事量、胃腸症状、他の薬を整理してください。お薬手帳や処方記録があると、製品と用量を確認しやすくなります。

皮膚科では抜け毛の分布と頭皮を確認しますが、糖尿病や肥満症の薬の変更は処方医との連携が必要です。自己中断せず、同じ時系列を双方へ共有してください。

FAQ

よくある質問

GLP-1薬を使うと、どのくらいの確率で脱毛しますか?

BMJ研究は比較薬に対するハザード比を示しましたが、個人の発症確率へそのまま置き換えることはできません。研究著者は絶対リスクが低いとしています。製品、用量、使用目的、日本人での確率をこの研究だけから決めることもできません。

ハザード比1.37は、37%の人が脱毛したという意味ですか?

違います。ハザード比は追跡期間中に診断へ至る速さを比較した相対指標です。脱毛した人の割合が37%という意味ではなく、薬との因果関係や個人の発症確率を直接示す数字でもありません。

抜け毛が増えたらGLP-1薬を中止すべきですか?

自己判断で中止・減量しないでください。元の治療目的、薬の効果、脱毛の型、体重変化、栄養状態、他の原因を確認し、処方医と相談して決めます。激しい腹痛、繰り返す嘔吐、脱水など別の強い症状があれば速やかに連絡してください。

急な減量が原因なら、サプリメントを飲めばよいですか?

一律には勧められません。鉄、亜鉛、ビオチンなどは不足の有無や摂取量を確認せず追加すると、過剰摂取や検査への影響が生じます。食事量、体重推移、胃腸症状を処方医へ伝え、必要な診察や検査を相談してください。

休止期脱毛とAGA、円形脱毛症はどう見分けますか?

休止期脱毛は全体の抜け毛が急に増えることがあり、AGAは生え際や頭頂部など一定の分布で徐々に進みます。円形脱毛症は境界の比較的明瞭な脱毛斑、眉毛・まつ毛、爪の変化を伴うことがあります。ただし重なる場合もあるため、頭皮と毛髪の診察が必要です。

日本の添付文書では脱毛症はどのように記載されていますか?

2026年7月25日確認時点で、ウゴービとゼップバウンドでは脱毛症が1~5%未満として記載されています。オゼンピックとマンジャロの電子添文本文では記載を確認できませんでしたが、これは発生しない証明ではありません。用量、対象集団、安全性情報が異なるため、製品間の頻度を直接比較しません。

Doctor

監修医師メッセージ

池袋サンシャイン通り皮膚科 院長 吉井恭平

吉井 恭平 池袋サンシャイン通り皮膚科 院長

薬を始めた後の抜け毛では、時間的な前後関係は重要ですが、それだけで原因を確定することはできません。抜け方、頭皮、体重変化、食事、他の薬、持病を一つずつ確認します。

GLP-1系薬を処方した医師と、毛髪・頭皮を診る皮膚科で役割を分け、必要な情報を共有することが大切です。自己判断で治療を止めず、写真と時系列を持参してください。