ケロイド体質とは?予防と治療の最前線
- ✓ ケロイドは傷の治癒過程で異常に増殖する線維性組織で、体質的な要因が大きく関与します。
- ✓ 予防には、傷の早期治療と適切なケアが不可欠であり、特に体質的なリスクがある場合は注意が必要です。
- ✓ 治療法は多岐にわたり、ステロイド注射、レーザー治療、手術、放射線療法などを組み合わせた集学的治療が効果的です。
ケロイド体質とは?その定義と特徴

ケロイド体質とは、皮膚にできた傷が治癒する過程で、過剰な線維組織が増殖し、元の傷の範囲を超えて広がる特徴を持つ体質を指します。この体質を持つ方は、通常の傷跡(瘢痕)とは異なり、赤みや盛り上がりが強く、かゆみや痛みを伴うことがあります。
- ケロイド
- 皮膚の損傷後に生じる異常な瘢痕組織の一種で、元の傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚にまで浸潤するように増殖する良性の腫瘍様病変です。かゆみや痛みを伴うことが多く、自然に治癒することは稀です。
- 肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
- ケロイドと同様に傷跡が盛り上がる状態ですが、元の傷の範囲内に留まり、時間とともに自然に改善する傾向があります。ケロイドとは病態が異なります。
ケロイドは、皮膚の真皮層にある線維芽細胞が過剰にコラーゲンを産生することで形成されます[1]。この過剰なコラーゲンが、硬く盛り上がった病変として現れるのです。遺伝的要因が大きく関与しており、家族にケロイド体質の人がいる場合、ご自身もケロイドができやすい傾向にあります。特に有色人種に多く見られると報告されており[2]、アフリカ系、アジア系の民族では白人よりも発生率が高いことが知られています。
ケロイドと肥厚性瘢痕の違いとは?
ケロイドとよく似た病態に「肥厚性瘢痕」があります。どちらも傷跡が盛り上がる状態ですが、病態と経過に明確な違いがあります。
| 項目 | ケロイド | 肥厚性瘢痕 |
|---|---|---|
| 増殖範囲 | 元の傷の範囲を超えて広がる | 元の傷の範囲内に留まる |
| 自然治癒 | 稀。進行することが多い | 時間とともに改善する傾向がある |
| 症状 | かゆみ、痛み、引きつれが強い | かゆみ、痛みがあるがケロイドより軽いことが多い |
| 好発部位 | 胸部、肩、耳、顎、恥骨部など | 体のどの部位にも発生しうる |
| 再発リスク | 手術単独では高い | ケロイドより低い |
当院では、初診時に「昔の傷跡がどんどん大きくなってきた」「ピアスを開けたところがしこりになって痛い」と相談される患者さまも少なくありません。問診の際に患者さまの家族歴を詳しく伺うようにしており、ご両親やご兄弟に同様の症状があるかを確認することで、ケロイド体質の可能性をより正確に判断する手がかりとしています。また、傷ができた経緯や部位、経過を丁寧に聞くことで、肥厚性瘢痕との鑑別を慎重に行っています。
ケロイドはなぜできる?原因とリスク要因
ケロイドの発生には、様々な要因が複雑に絡み合っています。主な原因は皮膚への損傷ですが、その後の治癒過程における異常な反応がケロイド形成につながります。
主な原因
- 外傷・手術創: 切り傷、擦り傷、火傷、手術後の縫合創など、皮膚に物理的な損傷があった場合に発生します。特に胸部、肩、関節部など、皮膚に張力がかかりやすい部位はリスクが高いとされます。
- 炎症性皮膚疾患: ニキビ(特に化膿性ニキビ)、毛嚢炎(もうのうえん)、水疱瘡(みずぼうそう)の跡、帯状疱疹(たいじょうほうしん)の跡など、皮膚の炎症が長期化したり、深部に及んだりした場合にもケロイドが発生することがあります。
- ピアス・タトゥー: 耳たぶへのピアス穿孔(せんこう)やタトゥーの施術も、皮膚に傷をつける行為であるため、ケロイドのリスクとなります。特に耳たぶはケロイドの好発部位の一つです。
- 予防接種・注射痕: BCGなどの予防接種の跡や、注射痕がケロイドになるケースも報告されています。
リスク要因
ケロイドの発生には、個人の体質が大きく影響します。以下の要因がリスクを高めると考えられています。
- 遺伝的要因: 家族にケロイド体質の人がいる場合、ケロイドができやすい傾向があります。特定の遺伝子が関与している可能性が示唆されています。
- 人種: アフリカ系、アジア系、ヒスパニック系の人種は、白人に比べてケロイドの発生率が高いことが知られています[2]。
- 年齢: 思春期から30歳代に最も多く発生するとされていますが、小児や高齢者にも見られます。
- 体の部位: 胸骨部(胸の中央)、肩、耳たぶ、顎、恥骨部など、皮膚の張力が強い部位や動きが多い部位にできやすい傾向があります。
- ホルモンバランス: 妊娠や思春期など、ホルモンバランスが変化する時期にケロイドが悪化したり、新たに発生したりするケースも報告されています。
実際の診療では、患者さまが「以前、ニキビ跡が盛り上がったことがある」とおっしゃる場合、ケロイド体質の可能性を考慮し、今後の治療や処置の際に慎重な対応を心がけています。特に手術を検討する際には、既往歴や家族歴を詳細に確認し、ケロイドのリスクを十分に説明した上で、予防策を講じることが重要なポイントになります。
ケロイド体質の方は、軽微な傷でもケロイドになる可能性があるため、皮膚に傷をつける行為(ピアス、タトゥー、美容整形など)を検討する際は、事前に専門医に相談することが非常に重要です。
ケロイドの予防法:傷が残りにくいケアとは?

ケロイド体質の方にとって、傷跡の予防は非常に重要です。傷ができてしまった場合でも、適切なケアを行うことでケロイドの発生リスクを低減し、症状の悪化を防ぐことが期待できます。
傷の早期治療と適切な処置
- 清潔な状態の維持: 傷口を清潔に保ち、感染を防ぐことが最も重要です。感染は炎症を悪化させ、ケロイド形成のリスクを高めます。
- 湿潤環境の維持: 傷口を乾燥させず、適度な湿潤環境を保つことで、皮膚の再生を促し、瘢痕形成を抑制する効果が期待できます。医療用ハイドロコロイドドレッシング材などが有効です。
- 早期の縫合・閉鎖: 外傷や手術創の場合、傷口を早期に、かつ丁寧に縫合することで、傷の治癒を促進し、ケロイドのリスクを減らすことができます。
物理的な圧迫と保護
傷が治癒していく過程で、物理的な圧迫を加えることはケロイドの予防に有効な手段の一つです。
- シリコンゲルシート・テープ: 傷跡に直接貼ることで、適度な圧迫と保湿効果をもたらし、コラーゲンの過剰産生を抑制すると考えられています。手術後の予防として広く用いられています。
- 圧迫療法: 特に広範囲の火傷跡などには、専用の圧迫着や弾性包帯を用いて持続的に圧迫を加えることで、ケロイドの増殖を抑制します。数ヶ月から年単位での継続が必要となる場合があります。
炎症のコントロール
炎症を抑えることもケロイド予防には重要です。
- ステロイド外用薬: 傷が赤く盛り上がり始めた初期段階で、医師の指示のもとステロイド外用薬を使用することで、炎症を抑え、ケロイドへの進行を食い止める効果が期待できます。
- トラニラスト内服薬: アレルギー反応を抑える作用を持つ内服薬で、ケロイドのかゆみや炎症を軽減し、増殖を抑制する目的で使用されることがあります。
当院では、手術後の患者さまに対して、傷が落ち着いた段階でシリコンゲルシートの使用を積極的に推奨しています。患者さまからは「貼っていると安心する」「かゆみが減った」といったお声をよく聞きます。特に耳のピアスによるケロイドの治療後には、再発予防としてピアスの穴を塞ぎ、イヤリングへの変更や、継続的な圧迫を指導することが多く、患者さまが治療を継続できるよう、具体的な使用方法や注意点を丁寧に説明するよう心がけています。
ケロイドの治療法:最新のアプローチと選択肢
ケロイドの治療は、その大きさ、部位、症状、患者さまの体質によって多岐にわたります。単一の治療法で完治することは難しく、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が一般的です[1]。
非外科的治療法
- ステロイド局所注射: ケロイド病変内に直接ステロイド薬を注入する方法です。ステロイドの抗炎症作用と線維芽細胞の増殖抑制作用により、ケロイドの盛り上がりを平坦化し、かゆみや痛みを軽減する効果が期待できます。数週間から数ヶ月おきに複数回注射を行うのが一般的です。
- シリコンゲルシート・テープ、圧迫療法: 予防法としても有効ですが、既存のケロイドに対しても、継続的な圧迫と保湿により、病変を軟化させ、平坦化を促す効果が期待できます。
- レーザー治療: 主に赤みのあるケロイドに対して、色素レーザー(Vビームレーザーなど)が用いられます。血管を収縮させることで赤みを軽減し、ケロイドの増殖を抑制する効果が期待できます。完全に平坦化させるというよりは、他の治療と併用して症状を改善する目的で使われることが多いです。
- 凍結療法: 液体窒素を用いてケロイド組織を凍結・壊死させる治療法です。特に小さなケロイドや、他の治療で効果が見られない場合に選択されることがあります。
- 内服薬: トラニラスト(商品名:リザベンなど)などの抗アレルギー薬が、かゆみや炎症の軽減、ケロイドの増殖抑制目的で処方されることがあります。
外科的治療法(手術)
ケロイドの外科的切除は、単独で行うと再発率が高いことが知られています。そのため、手術と他の治療法(放射線療法、ステロイド注射など)を組み合わせた併用療法が推奨されます[3]。
- 切除術: ケロイド組織を外科的に切除し、縫合する手術です。特に大きく盛り上がったケロイドや、機能障害を引き起こしている場合に検討されます。
- 術後放射線療法: 切除術後に放射線を照射することで、線維芽細胞の増殖を抑制し、ケロイドの再発を大幅に低減する効果が期待できます。手術後できるだけ早期に開始することが重要です。
- 術後ステロイド注射・圧迫療法: 手術後に傷跡へのステロイド注射やシリコンゲルシート、圧迫療法を継続することで、再発予防効果を高めます。
当院では、患者さまのケロイドの状態を詳しく診察し、個々に最適な治療プランを提案しています。特に手術を検討する際には、術後の再発予防が非常に重要であることを強調し、放射線療法や術後のケアについて丁寧にご説明しています。治療を始めて数ヶ月ほどで「かゆみが楽になった」「盛り上がりが少しずつ引いてきた」とおっしゃる方が多く、患者さまが治療の継続に前向きに取り組めるよう、定期的なフォローアップで効果の実感や副作用の有無を確認するようにしています。
ケロイド治療の注意点と生活上の工夫

ケロイド治療は長期にわたることが多く、患者さまご自身の協力が不可欠です。治療効果を最大限に引き出し、再発を防ぐためには、いくつかの注意点と日常生活での工夫が求められます。
治療中の注意点
- 治療の継続: ケロイド治療は、効果を実感するまでに時間がかかることがあります。途中で諦めずに、医師の指示に従って治療を継続することが重要です。
- 副作用の理解: ステロイド注射では、皮膚の菲薄化(ひはくか)、色素沈着、毛細血管拡張などの副作用が生じることがあります。レーザー治療では一時的な赤みや腫れ、色素沈着のリスクがあります。これらの副作用について事前に理解し、気になる症状があればすぐに医師に相談してください。
- 自己判断での中断・変更の禁止: 治療計画は患者さまの状態に合わせて立てられています。自己判断で治療を中断したり、他の治療法に変更したりすることは、症状の悪化や再発につながる可能性があります。
日常生活での工夫
- 傷への刺激を避ける: ケロイドは物理的な刺激に弱く、摩擦や圧迫、引っ掻く行為などで悪化することがあります。衣類やアクセサリーが擦れないように注意し、かゆみがある場合は掻きむしらないようにしましょう。
- 紫外線対策: 紫外線はケロイドの色素沈着を悪化させる可能性があります。治療中の部位は日焼け止めを塗る、衣服で覆うなどして紫外線から保護しましょう。
- 保湿ケア: 皮膚の乾燥はかゆみを引き起こし、掻きむしる原因となることがあります。ケロイド周囲の皮膚を保湿剤で適切にケアすることも大切です。
- ストレス管理: ストレスがケロイドの症状に直接影響するという明確なエビデンスはありませんが、ストレスは免疫機能や皮膚の状態に影響を与える可能性があります。心身のリラックスを心がけることも大切です。
診察の中で、「かゆくて夜も眠れない」と訴える患者さまもいらっしゃいます。このような場合、かゆみ止めの内服薬を調整したり、かゆみを軽減する外用薬を処方したりするなど、症状緩和に努めています。また、治療を継続できているか、効果の実感があるか、日常生活で困っていることはないかなど、処方後のフォローアップでは、副作用の有無だけでなく、患者さまの生活の質(QOL)にも配慮したきめ細やかなヒアリングを重視しています。
まとめ
ケロイド体質は、傷の治癒過程で線維組織が異常に増殖し、元の傷の範囲を超えて広がる特徴を持つ体質です。遺伝的要因や人種差が大きく関与しており、胸部、肩、耳たぶなど特定の部位に好発します。ケロイドの予防には、傷の早期かつ適切なケアが不可欠であり、シリコンゲルシートや圧迫療法が有効です。
治療法は、ステロイド注射、レーザー治療、手術、放射線療法など多岐にわたり、単一ではなく複数の方法を組み合わせた集学的治療が効果的とされています。特に手術を行う場合は、術後の再発予防として放射線療法や圧迫療法との併用が推奨されます。治療は長期にわたることが多く、医師の指示に従い、根気強く継続することが重要です。日常生活では、傷への刺激を避け、紫外線対策や保湿ケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、治療効果を高めることが期待できます。
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よくある質問(FAQ)
- Tina S Alster, Elizabeth L Tanzi. Hypertrophic scars and keloids: etiology and management.. American journal of clinical dermatology. 2003. PMID: 12680802. DOI: 10.2165/00128071-200304040-00003
- S Ud-Din, A Bayat. Strategic management of keloid disease in ethnic skin: a structured approach supported by the emerging literature.. The British journal of dermatology. 2014. PMID: 24098903. DOI: 10.1111/bjd.12588
- Jun Yong Lee, Su Ram Kim, Gyeol Yoo et al.. Development of huge keloid at donor site and recurrent keloid at graft site after excision of pubic keloid followed by split-thickness skin graft: A case report.. Medicine. 2024. PMID: 39093810. DOI: 10.1097/MD.0000000000039018