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Skin Disease Basics

天疱瘡診療ガイドライン2026を患者向けに解説

口の中の治りにくいただれや、破れやすい水ぶくれが続き、「天疱瘡かもしれない」「治療はどう変わったのか」と不安になる方へ。日本皮膚科学会は、2010年版以来となる「天疱瘡診療ガイドライン2026」を公表しました。 この記事では、天疱瘡の症状と診断、2026年版で示された治療の考え方、PDAIと抗デスモグレイン抗体による病勢評価、国内でのリツキシマブの位置づけを患者さん向けに整理します。食事や水分がとれない、発熱を伴う、びらんが急速に広がる場合は、記事だけで様子を見ず早めに医療機関へ相談してください。

監修: 吉井恭平 天疱瘡 最終更新 2026-07-18

まず押さえたい、3つのポイント

01

口の中の治りにくいただれや、破れやすい水疱・びらんは天疱瘡を疑う手がかりになる

02

診断は見た目だけでなく、皮膚生検、直接蛍光抗体法、抗デスモグレイン抗体などを組み合わせる

03

2026年版はステロイドを基本に、効果不十分時のIVIG・血漿交換、難治・再燃例のリツキシマブを整理した

早めの受診・連絡が必要なサイン

水分や食事がとれないほど口の痛みが強い、びらんが短期間で広がる、発熱・強いだるさ・膿・悪臭がある、目・のど・陰部などの粘膜症状がある場合は早めに医療機関へ相談してください。息苦しさ、のどの強い腫れ、意識状態の変化がある場合は救急受診を検討します。処方中のステロイドや免疫を調整する薬を自己判断で減量・中止しないでください。

01 / Overview

まず結論:2026年版は治療選択と病勢評価を具体化しました

天疱瘡診療ガイドライン2026は、2010年版以降に蓄積した研究と国内診療の変化を踏まえ、治療導入、効果不十分時の追加治療、再燃時の治療、治療中の病勢評価を7つのクリニカルクエスチョン(CQ)に整理しています。患者さんにとっての要点は、治療薬が増えたことだけではありません。

ガイドライン作成では、2021年12月までに公表された文献を中心に系統的な検討が行われています。公表後にも添付文書や安全性情報は更新されるため、実際の診療ではガイドライン本文に加え、PMDAの最新添付文書と患者さんの現在の状態を確認します。

中等症以上ではステロイド全身療法を治療の基本とし、初期治療の効果が不十分な場合は免疫グロブリン大量療法(IVIG)や血漿交換療法を追加します。ステロイドなどで寛解導入が難しい場合や、減量中に再燃した場合には、リツキシマブを追加する考え方が明確になりました。

一方、治療は病名だけで一律に決まりません。口と皮膚の病変の範囲、増え方、感染の有無、年齢、持病、これまでの治療、副作用リスクを総合して判断します。ガイドラインは診療の標準を示すもので、個別の処方箋ではありません。

新しい水疱やびらんが続くときは、同じ治療を漫然と続けず、PDAIという臨床スコアで変化を確認します。症状が落ち着いた維持期には抗デスモグレイン(Dsg)抗体の推移も参考にし、診察所見と合わせて治療方針を検討します。

  • 7つのCQで治療導入・追加治療・再燃・評価を整理
  • リツキシマブは国内適応と患者背景を確認して検討
  • PDAIと抗Dsg抗体を診察所見と組み合わせる
02 / Symptoms

天疱瘡の症状:口のただれと破れやすい水疱が手がかりです

天疱瘡は、皮膚の細胞同士をつなぐデスモグレインに対する自己抗体が関係する自己免疫性水疱症です。表皮の中で細胞同士の接着が弱くなるため、水疱は薄く破れやすく、受診時には水疱そのものより赤く湿ったびらんとして見えることがあります。人から人へうつる病気ではありません。

最も多い尋常性天疱瘡では、口腔粘膜の痛みを伴う治りにくいびらん・潰瘍が初発症状になることがあります。口内炎と思って歯科や耳鼻咽喉科を受診しても長引き、食事や歯磨きがつらくなることがあります。皮膚では頭、背中、胸、わき、鼠径部などに水疱やびらんが現れることがあります。

落葉状天疱瘡は、顔、頭、胸、背中などに、薄いかさぶたや鱗屑を伴う赤み、浅い水疱・びらんが出やすく、口の症状はほとんどみられません。ほかに腫瘍随伴性天疱瘡など稀な病型があり、強い粘膜症状や呼吸器症状を伴う場合は追加評価が必要です。

水疱が破れた部分は、衣類や寝具との摩擦、入浴時のこすり洗いでも痛みが増すことがあります。診断の手がかりとして皮膚を強くこすったり、水疱を意図的につぶしたりせず、清潔なガーゼなどで保護し、変化が分かる写真を残してください。

見た目が似る病気には、類天疱瘡、薬疹、感染症、熱傷、重い粘膜皮膚障害などがあります。水疱があるから天疱瘡とは限らず、痛み、かゆみ、粘膜症状、薬剤歴、広がる速さを合わせて診断します。

  • 尋常性天疱瘡は口の痛いただれが先行することがある
  • 落葉状天疱瘡は皮膚中心で粘膜症状が少ない
  • 水疱だけで自己診断せず、似た病気を検査で分ける
03 / Diagnosis

診断の流れ:皮膚生検と免疫検査を組み合わせます

天疱瘡の診断では、まず皮膚と粘膜のどこに、どのような水疱・びらんがあるかを診察します。発症時期、増え方、痛み、食事への影響、内服薬、既往歴も重要です。症状が強い日の写真は経過の共有に役立ちますが、写真だけで診断はできません。

必要に応じて、病変部の皮膚を一部採取する病理組織検査と、病変に近い皮膚で抗体の沈着を確認する直接蛍光抗体法を行います。表皮細胞間の接着が外れる棘融解や、表皮細胞間へのIgGなどの沈着が診断の手がかりです。採取する部位が検査結果に関わるため、専門的な判断が必要です。

血液では抗Dsg1抗体、抗Dsg3抗体などを測定します。病型の推定や治療中の経過観察に役立ちますが、抗体価だけで重症度や治療変更を決めるわけではありません。症状が落ち着いても抗体が陽性のままの方もいるため、同じ患者さんの推移を診察所見と合わせて見ます。

皮膚生検は、病理用と直接蛍光抗体法用で採取する場所が異なることがあります。受診前に外用薬を使った部位や、最近増えた病変を医師へ伝えてください。自己判断で新しい薬を重ねて検査を遅らせるより、検査が必要か早めに相談することが大切です。

診断後はPDAIで皮膚と粘膜の病変範囲を評価し、軽症・中等症・重症を判断します。治療前の感染症スクリーニングや血液検査、胸部評価なども、選ぶ治療と患者さんの背景に応じて行います。

04 / Guideline 2026

2026年版の7つのCQ:患者さんが押さえたい変更点

CQ1は、中等症以上の初期治療としてプレドニゾロン内服を強く推奨しています。CQ2は免疫抑制薬の併用を弱く推奨し、薬ごとの効果と副作用、国内での承認状況、患者背景を考えて選ぶ必要があるとしています。薬の種類や量を患者さんが自己判断で選ぶものではありません。

CQ3は、中等症以上で初期治療の効果が不十分な場合、早期の寛解導入を目的に血漿交換療法またはIVIGを追加することを強く推奨しています。どちらも設備や経験が必要な治療で、病勢や感染リスクを見ながら専門施設で検討します。

CQ4とCQ5は、ステロイド全身療法などで寛解導入が難しい症例、またはステロイド減量中に再燃した症例で、リツキシマブの追加を強く推奨しています。ただし日本の添付文書上の対象は難治性の尋常性天疱瘡・落葉状天疱瘡で、既存治療で効果不十分、または再燃のためステロイド減量が難しい患者さんです。

ガイドラインの『強く推奨』『弱く推奨』は、患者さんが薬の優先順位を自分で決めるための表示ではありません。研究の確かさ、期待できる利益、不利益、実行可能性をまとめた診療上の判断です。持病や感染歴、妊娠希望、通院可能性などで選択は変わります。

CQ6は治療導入期のPDAI、CQ7は維持期の抗Dsg抗体による評価を強く推奨しています。数字だけで薬を増減するのではなく、新しい水疱・びらん、粘膜症状、感染、副作用と合わせて判断する点が重要です。

天疱瘡の症状確認、免疫検査、PDAIと抗デスモグレイン抗体による評価の流れ
天疱瘡の診断と治療評価の流れを示す模式図です。見た目だけで診断せず、皮膚生検・免疫検査・病勢評価を組み合わせます。
  • CQ1〜2:ステロイドを基本に免疫抑制薬を個別検討
  • CQ3〜5:効果不十分・難治・再燃時の追加治療
  • CQ6〜7:PDAIと抗Dsg抗体で病勢を追う
05 / Treatment

治療の考え方:寛解導入と再燃予防を分けて考えます

治療の最初の目標は、新しい水疱やびらんができない状態へ早く近づける寛解導入です。中等症以上ではステロイド全身療法が基本となり、皮膚の創部保護、口腔内ケア、痛みや栄養への対応を組み合わせます。病変が広い、食事がとれない、急速に悪化する場合は入院治療が必要になることがあります。

初期治療で十分に抑えられない場合は、IVIG、血漿交換療法、ステロイドパルス療法、免疫抑制薬などを病勢に応じて追加します。それぞれ効果が現れる速さと副作用が異なり、自己抗体を減らす治療でも感染から守る免疫に影響することがあります。

薬物治療と同時に、びらんを乾燥や摩擦から守る処置、口腔内の痛みへの対応、食べやすい食事、十分な水分と栄養の確保も重要です。食事量が減った、体重が落ちた、口腔ケアが難しい場合は我慢せず伝え、皮膚科以外の診療科や栄養支援とも連携します。

リツキシマブはB細胞表面のCD20を標的とする抗体薬です。2026年版では寛解導入困難例や再燃例での追加が強く推奨されました。一方、国内添付文書では難治性の尋常性・落葉状天疱瘡が対象で、緊急時に対応できる施設で、十分な知識・経験を持つ医師が適応と安全性を判断して点滴します。

症状が落ち着いた後は、再燃を防ぎながらステロイドなどを慎重に減量する維持期へ移ります。自己判断で減量・中止すると、再燃だけでなく、副腎機能への影響を招く可能性があります。調子がよくても、予定された診察と検査を続け、発熱や新しい水疱が出たら早めに処方元へ連絡してください。

06 / Safety

治療中の安全確認:感染、肝炎再活性化、副作用を見逃さない

ステロイド、リツキシマブ、免疫抑制薬などは、天疱瘡を起こす免疫反応を抑える一方、感染防御にも影響します。治療前には、血液検査、B型肝炎、結核などを患者背景に応じて確認し、治療中は白血球、リンパ球、IgG、炎症反応などを定期的に評価します。

リツキシマブでは点滴中または点滴後のinfusion reaction、重い感染症、B型肝炎ウイルス再活性化などに注意が必要です。PMDA添付文書は、緊急時に十分対応できる医療施設での投与と、治療開始前に有効性・危険性を説明して同意を得ることを求めています。

ステロイドの全身投与では、感染症、血糖上昇、骨粗鬆症、胃腸障害、眼の副作用などを確認します。副作用が心配でも急にやめず、症状と検査値をもとに予防策や減量計画を相談します。治療薬によってはワクチンの時期や種類も事前確認が必要です。

天疱瘡そのものは感染症ではないため、通常は家族から隔離する必要はありません。ただし、びらん部への二次感染を防ぐため、創部に触れる前後の手洗い、清潔な被覆材、タオル類の衛生管理を意識します。強い消毒を自己判断で繰り返すと刺激になることがあります。

発熱、咳、息苦しさ、排尿時痛、強いだるさ、帯状疱疹を疑う片側の痛みと水疱、創部の膿や悪臭がある場合は早めに治療医へ連絡してください。軽い感染に見えても、免疫を抑える治療中は評価の優先度が上がることがあります。

07 / When To Visit

受診と専門医連携の目安:口のただれが長引く段階から相談を

口内炎のような痛いただれが2週間以上治りにくい、同じ場所ではなく広がる、皮膚に破れやすい水疱が増える場合は皮膚科へ相談してください。歯科や耳鼻咽喉科で治療しても改善しない口腔粘膜病変では、皮膚の症状が乏しくても自己免疫性水疱症を含めて評価することがあります。

食事や水分がとれない、短期間でびらんが広がる、発熱や膿・悪臭がある、目やのどの粘膜に症状がある場合は、早めの受診が必要です。息苦しさ、のどの強い腫れ、意識状態の変化がある場合は、救急医療へつなぐ判断が必要です。

天疱瘡が疑われる場合、皮膚生検や免疫検査を行える施設へ紹介することがあります。診断後も、外来で管理できる軽症か、入院による寛解導入が必要かを判断し、自己免疫性水疱症の診療経験が豊富な皮膚科専門医と連携します。

紹介になった場合も、最初に受診した皮膚科が経過観察や創部ケアを分担することがあります。通院距離、緊急時の連絡先、どの医療機関で採血や処方を受けるかを確認し、治療計画を一本化してください。複数施設から同じ薬が重ならないよう薬手帳を共有します。

受診時は、症状が強い日の写真、いつからどこに広がったかのメモ、薬手帳、歯科・耳鼻咽喉科を含むこれまでの治療歴、食事量や体重変化を伝えてください。すでにステロイドを使用している場合は、薬の名前と量を正確に共有します。

08 / Summary

まとめ:新しい治療選択肢と同じくらい、継続評価が重要です

天疱瘡診療ガイドライン2026は、中等症以上のステロイド治療、効果不十分時のIVIG・血漿交換、寛解導入困難例や再燃例へのリツキシマブ、PDAIと抗Dsg抗体による評価を整理しました。治療の選択肢が増えても、病勢と安全性を継続して確認する基本は変わりません。

とくにリツキシマブは、国内では難治性の尋常性・落葉状天疱瘡に対する適応であり、既存治療の効果や再燃、感染リスクを専門医が確認して使用します。海外試験の結果だけを見て、初回治療として希望すれば誰でも受けられるという意味ではありません。

天疱瘡は症状が落ち着いても再燃することがあるため、見た目がよい時期の定期診察にも意味があります。次回受診日、発熱や新しい水疱が出たときの連絡先、薬を飲み忘れた場合の対応を事前に確認しておくと、変化があったときに行動しやすくなります。

口のただれや皮膚の水疱が長引く場合は、見た目だけで決めつけず、皮膚生検と免疫検査につなげることが大切です。診断後は薬を自己判断で調整せず、症状の写真、PDAI、抗体価、副作用を治療医と共有しながら寛解と再燃予防を目指します。

池袋で治りにくい水ぶくれや口のただれを相談したい方へ

池袋で皮膚科受診をご検討の方へ

池袋駅周辺や東池袋で、口の中の痛いただれ、皮膚の破れやすい水ぶくれ、広がるびらんが続く場合は、いつから、どの部位に、どのように増えたかを整理して受診すると相談が進みやすくなります。症状が強い日の写真、薬手帳、これまで受診した医療機関の検査結果があればお持ちください。

天疱瘡が疑われる場合、皮膚生検や免疫学的検査、全身治療、入院治療を行える医療機関との連携が必要になることがあります。池袋サンシャイン通り皮膚科では一般皮膚科として初期評価を行い、必要に応じて自己免疫性水疱症の診療経験がある専門医療機関へご紹介します。

FAQ

よくある質問

天疱瘡は人にうつりますか?

天疱瘡は自己免疫が関係する病気で、感染症ではないため人から人へうつる病気ではありません。ただし、びらん部に細菌感染が重なることはあるため、膿、悪臭、発熱、赤みの拡大があれば治療医へ連絡してください。

天疱瘡と口内炎はどう違いますか?

尋常性天疱瘡では、口の中に痛みを伴う治りにくいびらん・潰瘍が続き、食事がつらくなることがあります。見た目だけでは一般的な口内炎と区別できないため、2週間以上続く、広がる、皮膚にも水疱がある場合は皮膚科へ相談してください。

天疱瘡は血液検査だけで診断できますか?

抗Dsg1・Dsg3抗体は重要な手がかりですが、通常は症状、皮膚生検の病理組織、直接蛍光抗体法などを組み合わせて診断します。抗体価だけで病型や重症度、治療変更を決めるものではありません。

リツキシマブは天疱瘡の最初の治療ですか?

日本の添付文書では、難治性の尋常性・落葉状天疱瘡で、既存治療の効果が不十分、または再燃でステロイド減量が難しい場合に検討します。2026年版も寛解導入困難例・再燃例で追加を推奨しており、専門医が適応と安全性を判断します。

症状がよくなったらステロイドをやめてもいいですか?

自己判断で急に減量・中止しないでください。再燃や副腎機能への影響が問題になることがあります。新しい水疱、PDAI、抗Dsg抗体、副作用を確認しながら、治療医が段階的な減量計画を立てます。

天疱瘡は指定難病ですか?

天疱瘡は国の指定難病35です。医療費助成は診断名だけで自動的に決まるのではなく、重症度などの基準と申請手続きがあります。対象になる可能性がある場合は、主治医、自治体や保健所の窓口へ確認してください。

池袋サンシャイン通り皮膚科 院長 吉井恭平

この記事の監修医師

吉井恭平|池袋サンシャイン通り皮膚科 院長

天疱瘡は稀な病気ですが、口の中の治りにくいただれから始まり、診断まで時間がかかることがあります。水疱が目立たなくても、痛いびらんが続くときは経過を写真とメモで共有してください。
2026年版はリツキシマブなどの追加治療だけでなく、PDAIと抗Dsg抗体を使って病勢を継続評価する重要性を示しています。当院で初期評価を行い、必要な検査や入院治療が見込まれる場合は専門医療機関と連携します。
参考文献
  1. 日本皮膚科学会 天疱瘡診療ガイドライン2026. 日皮会誌 136(3):189-210, 2026.
  2. 日本皮膚科学会 一般公開ガイドライン.
  3. PMDA リツキサン点滴静注100mg・500mg 医療用医薬品情報(添付文書 2026年6月改訂).
  4. 厚生労働省 令和8年4月時点の指定難病(告示番号35 天疱瘡).
  5. Joly P, et al. First-line rituximab combined with short-term prednisone versus prednisone alone for pemphigus (Ritux 3). Lancet. 2017;389:2031-2040. PMID: 28342637.
  6. Werth VP, et al. Rituximab versus Mycophenolate Mofetil in Patients with Pemphigus Vulgaris. N Engl J Med. 2021;384:2295-2305. PMID: 34097368.