
Daily Clinic Notes
頭皮ボトックスはAGAに有効?3報と最新研究を読んでみた
先日、ボツリヌストキシンによる脱毛治療の文献を読む機会がありました。「頭皮の酸素環境を改善してDHTを減らす」「TGF-β1を抑える」という説明は興味深いものです。ただ、面白い仮説と、患者さんへ確立した治療として説明できることは同じではありません。添付された3報と、その後に発表された臨床研究を順に読み直しました。
Key Points
先にお伝えしたい3つのこと
頭皮ボトックスには発毛の可能性を示す研究がありますが、効果は研究間で一致せず、AGAの標準治療としては確立していません。
酸素化によるDHT抑制は仮説です。TGF-β1抑制も主に培養細胞で示された結果で、人の頭皮で治療機序として証明されたわけではありません。
CureJetでボツリヌストキシンをAGAの頭皮へ投与した臨床試験は確認できず、針による皮内・筋肉内注射の結果をそのまま当てはめることはできません。
頭皮へのボツリヌストキシン注入は「今後さらに研究する価値がある治療」ですが、現時点でフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなどの標準的なAGA治療に代わるものとは言えません。
- 発毛を示した小規模研究はありますが、無対照研究や治療前後の比較が多く含まれます。
- 比較試験では良好な結果と、毛数に差が出なかった結果の両方があります。
- DHTやTGF-β1への作用を、患者さんの頭皮で臨床的に確認した研究は不足しています。
- 本記事は頭皮ボトックス施術開始のお知らせではありません。
研究の話と、実際の治療選択は分けて考えます
AGAに見える抜け毛でも、円形脱毛症、休止期脱毛、頭皮の炎症、甲状腺疾患などが隠れることがあります。治療名を先に決めるのではなく、脱毛の型と進行を確認することが出発点です。
文献をいただき、少し立ち止まって読んでみました
きっかけは、ボツリヌストキシンによる脱毛治療のメカニズムを説明した3本の文献でした。営業資料には、頭皮の筋緊張がゆるむことで血流と酸素供給が増え、DHTの生成を抑える可能性、さらに脱毛に関わるTGF-β1を抑える可能性が書かれていました。
最初に読んだ時は、理屈としては興味深いと思いました。一方で、診療で新しい治療を考える時には、「理屈が通るか」「人で毛が増えたか」「既存治療より役立つか」「その投与方法でも同じか」を別々に確認する必要があります。
今回の3報は、いずれもAGAに対する可能性を探った大切な初期研究です。ただし、3報だけでDHT抑制や発毛効果が確立したと判断することはできませんでした。
「酸素が増えるとDHTが減る」は、まだ仮説です
男性AGAでは、テストステロンから5α還元酵素によって作られるDHTが毛包のアンドロゲン受容体へ作用し、毛の成長期を短くすることが重要です。フィナステリドやデュタステリドは、この5α還元酵素を阻害することでDHT産生を抑えます。
頭皮ボトックスについては、前頭筋、側頭筋、後頭筋などの緊張をゆるめることで血流や酸素環境が改善し、低酸素状態で強まり得るDHTの影響を弱めるという仮説が提案されています。しかし、添付された臨床研究では頭皮の酸素分圧、血流、頭皮内DHT濃度を治療前後で測定していません。
つまり、「筋肉がゆるむ」「血流が増えるかもしれない」「DHTへの影響が弱くなるかもしれない」という途中の推論が重なっています。患者さんへの説明では「DHTを抑える治療」と断定せず、未確認の作用仮説と伝えるべきだと考えます。

TGF-β1抑制は興味深いものの、培養細胞での結果です
TGF-β1は、毛包の退行期への移行や毛母細胞の増殖抑制に関係する因子の一つです。2020年のJAADの研究では、DHTで刺激したヒト毛乳頭細胞へボツリヌストキシンを加えると、TGF-β1の発現が低下しました。
ここは今回の資料の中で、機序に直接触れた重要なデータです。ただし、これは培養皿の中の細胞実験です。同じ研究で治療を受けた18人の頭皮から組織を採取し、TGF-β1が実際に低下したことを確認したわけではありません。
細胞実験は「なぜ効く可能性があるのか」を考える手がかりになりますが、「その機序で人の毛が増えた」と証明するには、頭皮組織やバイオマーカーを用いた追加研究が必要です。
送っていただいた3報は、どこまで分かった研究だったか
研究結果を読む時は、人数だけでなく、比較対象があるか、評価者が治療内容を知らない設計か、他の治療の影響を分けられるかが大切です。
いずれも「効く可能性」を示す初期データですが、自然な変動、写真条件、測定誤差、注射刺激そのものの影響を十分に除けない設計です。特に治療前後だけを比べた研究は、治療を受けなかった場合との差を直接示していません。
その後の比較試験を追うと、結果は一方向ではありませんでした
添付された3報の後にも研究が続いています。2024年の男性60人の試験では、5%ミノキシジル単独よりも、ボツリヌストキシンを併用した群で4か月・6か月時点の写真評価や満足度が良好でした。これは前向きな結果ですが、ボツリヌストキシン単独ではなく、ミノキシジルへの上乗せ効果を見た研究です。
一方、2024年の90人を対象とした二重盲検試験では、超音波で毛包の幅や長さに変化がみられたものの、3か月後の毛包数と毛数はプラセボ群と有意差がありませんでした。2025年の男性15人の試験でも、6か月後の毛密度や軟毛・終毛比に有意な改善は認められず、前頭部の毛径は低下しました。
メタ解析では全体として毛数増加のシグナルが報告されています。ただ、研究ごとに製剤、50~150単位という用量、皮内・皮下・筋肉内という投与層、施術回数、併用治療が異なります。小規模研究が多く、治療前後の比較を中心にまとめた解析もあるため、「何単位を、どの深さへ、何か月ごとに行えばよいか」はまだ定まりません。
効果がない、とも、確立した、とも言い切れません
現在の位置づけは「有望だが不確実」です。良い結果と否定的な結果の両方を示し、研究デザインの違いまで説明することが、患者さんにとって一番誠実だと思います。
CureJetとの相性は、AGAの臨床効果とは別に検証が必要です
CureJetは針を使わず、液体を高速の微細なジェットとして皮膚内へ届ける機器です。顔面へのポリヌクレオチド製剤などでは臨床研究がありますが、2026年8月1日時点で、CureJetを用いてボツリヌストキシンをAGA患者の頭皮へ投与した臨床試験は確認できませんでした。
添付研究の投与方法は、頭皮周囲筋への筋肉内注射、頭皮への皮内注射などです。ジェット注入では到達する深さ、横方向への広がり、皮膚内に残る実投与量が針注射と同じとは限りません。また、機器を通過した後も薬剤の生物活性が保たれるかという確認も必要です。
したがって、「ボツリヌストキシンの研究がある」ことと、「CureJetで行う頭皮治療に効果がある」ことの間には、まだ埋めるべき部分があります。
今の診療で優先するのは、診断と標準治療です
日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、男性AGAに対するフィナステリド・デュタステリド内服、男性・女性のパターン脱毛に対するミノキシジル外用など、蓄積された臨床試験をもとに治療が整理されています。
頭皮ボトックスを検討する前に、まずAGAかどうか、男性型か女性型か、炎症や急な脱毛がないかを確認します。その上で、期待できる効果、妊娠に関する注意、副作用、継続しやすさを相談し、標準治療から選ぶのが現時点では妥当です。
なお、AGAに対するボツリヌストキシン治療は国内承認適応ではありません。少なくとも国内のボトックス注用50単位・100単位の添付文書にはAGAは効能として記載されておらず、適応外治療として有効性、安全性、製剤、投与方法を慎重に検討する必要があります。
今回、文献を読んで改めて感じたこと
新しい治療の話を聞くと、つい「効くか、効かないか」の二択で考えたくなります。ただ、今回の頭皮ボトックスは、その中間にある治療でした。効く可能性を示す写真や毛数データはあります。しかし、比較試験の結果は揃わず、作用機序も人の頭皮では十分に確認されていません。
私自身は、こうした治療を最初から否定する必要はないと思っています。仮説が臨床研究へ進み、投与方法が標準化され、どのような患者さんに上乗せ効果があるか分かれば、将来の選択肢になる可能性があります。
一方で、研究途中の治療ほど、分かっていることと分かっていないことを分けて話す必要があります。「DHTを抑えるから生える」と一行でまとめず、今はまだ有望性を検証している段階であることを忘れないようにしたいと思いました。
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AGAについて次に確認するページ
治療の全体像、薬の違い、受診方法をそれぞれ詳しく確認できます。
よくある質問
頭皮ボトックスはAGAに効くと証明されていますか?
小規模研究や一部の比較試験では毛数増加やミノキシジルへの上乗せ効果が報告されています。一方、プラセボとの差が出なかった試験や、6か月後に改善しなかった試験もあります。現時点では有望性を研究している段階です。
ボツリヌストキシンは頭皮のDHTを減らしますか?
筋緊張の緩和による血流・酸素環境の変化から、DHTの影響が弱まる可能性が仮説として提案されています。しかし、治療前後の頭皮内DHTを測定して減少を確認した臨床研究は不足しています。
TGF-β1を抑える作用は確認されていますか?
DHTで刺激した培養毛乳頭細胞にボツリヌストキシンを加えると、TGF-β1の発現が低下した実験があります。ただし、治療を受けた患者さんの頭皮で同じ変化を確認した結果ではありません。
CureJetで投与しても同じ効果が期待できますか?
現時点では判断できません。針による皮内・皮下・筋肉内注射とジェット注入では、深さ、広がり、実投与量が異なる可能性があります。CureJetを用いたAGAの直接的な臨床試験が必要です。
頭皮ボトックスはフィナステリドやミノキシジルの代わりになりますか?
現時点では代替治療とは考えられていません。AGAと診断された場合は、性別、既往歴、副作用、妊娠に関する注意などを確認し、ガイドラインで位置づけられた治療を先に検討します。
AGAへのボツリヌストキシン治療は国内で承認されていますか?
AGAは国内のボツリヌストキシン製剤の承認効能に含まれていません。実施を検討する場合は適応外治療として、製剤、投与方法、期待できる効果と不確実性、安全性について個別の説明が必要です。
院長メッセージ
吉井恭平 池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
- Zhang L, et al. A small dose of botulinum toxin A is effective for treating androgenetic alopecia in Chinese patients. Dermatol Ther. 2019.
- Zhou Y, et al. Effectiveness and Safety of Botulinum Toxin Type A in the Treatment of Androgenetic Alopecia. Biomed Res Int. 2020.
- Shon U, et al. The effect of intradermal botulinum toxin on androgenetic alopecia and its possible mechanism. J Am Acad Dermatol. 2020.
- Yu L, et al. Botulinum toxin type A with topical minoxidil versus topical minoxidil in male AGA. Arch Dermatol Res. 2024.
- Li L, et al. Efficacy of type A botulinum toxin treatment for AGA using ultrasound combined with trichoscopy. Skin Res Technol. 2024.
- Subcutaneous Versus Combined Subcutaneous and Intramuscular Botulinum Toxin for Androgenetic Alopecia. Actas Dermosifiliogr. 2025.
- Effects and Safety of Botulinum Toxin Injection in Treatment of Androgenetic Alopecia: A Meta-analysis and Systematic Review. Dermatol Surg. 2025.
- The Efficacy of Botulinum Toxin in the Treatment of Androgenetic Alopecia: A Meta-Analysis. Dermatol Ther. 2026.
- 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版.
- PMDA. ボトックス注用50単位・100単位 添付文書.