
Skin Disease Basics
円形脱毛症と緑内障約5万8千人研究の読み方
2026年8月、円形脱毛症の成人では、その後に緑内障関連の診断コードが付く割合が対照群より高かったとする多施設研究が公表されました。マッチング後は円形脱毛症28,966人と対照28,966人を比較し、15年間のハザード比は1.89でした。しかし、この数字は円形脱毛症が緑内障を起こすと証明したものでも、全員に一律の眼科検査を求める基準でもありません。研究が実際に数えたもの、感度分析、国内ガイドラインとの違いを整理します。
Key Points
まず押さえたい、3つのポイント
成人28,966人ずつを比較し、緑内障関連コードの15年ハザード比は1.89だった
主要評価には「緑内障疑い」のコードが含まれ、除外後は1.68と推定幅が広かった
眼圧・OCT・視野検査や眼科医による診断確認がなく、因果関係は証明できない
急な目の痛み・充血・かすみ、頭痛や吐き気がある場合は通常予約を待ちません
急な強い目の痛み、充血、視界のかすみ、光の周りに虹が見える、頭痛や吐き気を伴う場合は、円形脱毛症との関連を考える前に急性の眼疾患を除外する必要があります。眼科の救急相談や救急受診を検討してください。使用中のステロイドは自己判断で急に中止せず、処方医へ連絡します。
まず結論:関連は報告されましたが、原因と結果は証明されていません
今回の研究は、円形脱毛症の診断後に緑内障関連の診断コードが記録される頻度が、一般健診を受けた対照群より高かったという結果です。15年間のハザード比1.89は、観察期間中の診断コード出現の速さを群間で比べた相対的な指標で、個人の発症確率が89%になるという意味ではありません。
観察研究では、円形脱毛症そのもの、共通する免疫・炎症、ステロイド治療、医療機関を受診する回数、年齢や持病などを完全に分けられません。研究者も因果関係は結論できないとしています。
したがって、『円形脱毛症が緑内障を起こす』『円形脱毛症なら全員がすぐ眼科検査を受けるべき』とは言えません。一方、目の症状、緑内障・高眼圧の既往、眼の家族歴、ステロイド使用などがある方が相談材料として知る価値はあります。
- 関連を示した観察研究
- 因果関係は未証明
- 相対指標を個人の確率にしない
- 一律の眼科受診基準ではない
研究の設計:147医療機関の電子カルテから成人28,966人ずつを比較
研究はTriNetX Global Collaborative Networkを用いた多施設後ろ向きコホート研究です。2005~2023年に円形脱毛症と診断され、少なくとも2回の受診がある18歳以上を対象にしました。過去の緑内障、悪性腫瘍、死亡記録がある人などは除外されています。
円形脱毛症群と、一般的な定期健診を受けた対照群について、年齢、性別、人種、生活習慣、持病、薬剤などを傾向スコアで調整し、各28,966人をマッチングしました。データベース全体は147医療機関、1億4,400万件を超える記録を含みますが、解析対象はマッチング後の57,932人です。
主要評価はICD-10-CMのH40~H42で記録された緑内障関連コードです。ここには確定した緑内障だけでなく、H40.0の緑内障疑いも含まれます。眼圧、視神経乳頭、OCT、視野検査を研究者が再判定した研究ではありません。
- 多施設後ろ向きコホート
- 成人28,966人ずつ
- 傾向スコアマッチング
- 主要評価は診断コード
主な結果:15年ハザード比1.89、5年1.57、10年1.98
マッチング後の主要解析では、緑内障関連コードのハザード比は5年で1.57、10年で1.98、15年で1.89でした。15年の95%信頼区間は1.51~2.38で、研究集団では円形脱毛症群のほうが高い関連を示しました。
緑内障の病型別では、原発緑内障のハザード比は1.99でしたが、イベント数は円形脱毛症群33件、対照群16件と少数です。女性では1.78、65歳以上では2.76でしたが、サブグループ解析は人数と背景差の影響を受けるため、個人の検査頻度を直接決める数字ではありません。
米国ネットワークに限定した再解析では2.11、活動性乾癬を比較相手にした解析では1.74でした。異なる比較でも方向が一致した点は結果の頑健性を支えますが、診断コードと観察研究という基本的な制約は残ります。
- 15年HR 1.89(95%CI 1.51~2.38)
- 5年HR 1.57
- 10年HR 1.98
- 病型別・サブグループは少数例に注意
感度分析:緑内障疑いコードを除くと1.68、推定幅は広がりました
主要評価には緑内障疑いのH40.0が含まれるため、これを除いた解析も重要です。H40.0を除くとハザード比は1.68、95%信頼区間は1.01~2.78でした。関連の方向は同じですが、信頼区間の下限が1.01と境界に近く、不確実性が大きい結果です。
閉塞隅角緑内障と続発緑内障を除いた解析では1.75でした。全身性ステロイド使用をマッチングに含めた解析は1.866、全身性ステロイド使用者を除外した解析は2.262で、全身性ステロイドだけでは結果を説明できない可能性を示します。
ただし、電子カルテではステロイドの部位、累積量、実際の使用状況、時間とともに変わる治療を完全には捉えられません。『ステロイドと無関係』と証明した解析ではなく、残余交絡は残ります。
- H40.0除外後HR 1.68
- 閉塞隅角・続発緑内障除外後HR 1.75
- 全身性ステロイド調整後も関連
- 残余交絡は否定できない
研究の限界:診断コード、受診頻度、重症度不足を分けて読みます
第一の限界はアウトカムが診断コードであることです。単一のコード記録でも該当し、眼科医による確定診断、眼圧、視神経所見、OCT、視野検査がありません。緑内障疑いを含む主要評価を、視機能障害を伴う緑内障と同じに扱えません。
第二に、円形脱毛症の人は皮膚科や他科を受診する機会が増え、目の検査や診断コードが付く可能性も高まります。対照群を定期健診受診者にしたことや乾癬比較を行ったことはこの偏りを減らす工夫ですが、完全には除けません。
第三に、脱毛の範囲・病型・活動性、眉毛やまつ毛の病変、治療の累積量が十分に分かりません。主に北米と欧州のデータで、日本人だけの結果ではなく、18歳未満には適用できません。
研究は大学病院の一部助成を受け、著者らは商業的・金銭的な利益相反を申告していません。一方、著者1名は掲載誌の編集委員でした。原データはTriNetXの利用制限があり、外部から個票を再解析できない点も確認が必要です。
- 眼科検査による確定診断なし
- 受診・発見バイアス
- 円形脱毛症の重症度不明
- 成人・主に北米欧州のデータ
国内ガイドライン:関連の記載はあっても、一律検査の推奨はありません
日本皮膚科学会の円形脱毛症診療ガイドライン2024は、円形脱毛症で眼科的異常の頻度が高いとの報告に触れています。また、ステロイド治療の有害事象として眼圧上昇や緑内障に注意し、眉毛への局所注射では眼科受診を促す記載があります。
しかし、円形脱毛症の成人全員へ一律に緑内障スクリーニングを行う推奨や検査間隔は示していません。今回の2026年研究も、日本の診療ガイドラインを変更する介入研究ではありません。
日本緑内障学会の診療ガイドライン第5版では、緑内障の診断・管理に眼圧だけでなく、隅角、視神経、画像、視野などの評価を組み合わせます。皮膚科の診断コードや脱毛症の有無だけで緑内障を診断することはできません。
- 国内AAガイドラインに眼科的異常の記載
- ステロイドによる眼圧上昇に注意
- 全員検査の推奨はない
- 緑内障診断は眼科評価が必要
眼科相談の考え方:症状、既往・家族歴、ステロイド歴を共有します
急な強い目の痛み、充血、視界のかすみ、虹のような輪、頭痛や吐き気は、急性の眼疾患を除外するため速やかな眼科評価が必要です。一方、慢性の緑内障は初期に自覚症状が乏しいことがあり、症状がないことだけで否定できません。
緑内障・高眼圧を指摘されたことがある、血縁者に緑内障がいる、眼科で経過観察中、目の症状がある、顔やまぶた周囲を含むステロイド治療や長期の全身性ステロイド歴がある場合は、皮膚科と眼科の双方へ共有してください。
円形脱毛症だけで、いつ・どの検査を受けるべきかは今回の研究から決められません。既知の眼科リスク、年齢、症状、治療歴、過去の検査結果をもとに、眼科で必要性と間隔を相談します。
受診時は、脱毛の開始日と広がり、使用中・過去の薬、ステロイドの剤形と部位、目の症状、緑内障の本人・家族歴、最近の眼科検査をメモにします。薬は自己判断で中止・増減せず、処方医へ相談してください。
- 急な目の痛み・充血・かすみは早急に相談
- 本人・家族歴を共有
- ステロイドの部位と期間を共有
- 検査間隔は眼科で個別判断
まとめ:不安をあおる数字ではなく、個別のリスクを相談する材料です
2026年の多施設研究は、円形脱毛症28,966人と対照28,966人を比較し、緑内障関連コードの15年ハザード比1.89を報告しました。米国限定や乾癬比較、ステロイドを考慮した解析でも関連の方向はおおむね一致しました。
一方、主要評価には緑内障疑いが含まれ、これを除くと1.68で推定幅が広がりました。眼圧、OCT、視野検査、眼科医の再判定がなく、受診頻度、重症度、治療の残余交絡もあります。因果関係は証明されていません。
国内ガイドラインは、円形脱毛症だけを理由に成人全員へ一律の眼科検査を勧めていません。急な眼症状は早急に相談し、既往・家族歴、眼科リスク、ステロイド歴がある場合は皮膚科と眼科に共有します。
研究結果を理由に治療を自己中止したり、緑内障を自己診断したりせず、脱毛症の治療と目の評価をそれぞれの専門診療で整理することが大切です。
Ikebukuro Local Care
池袋で円形脱毛症と目の不安を相談したい方へ
池袋で皮膚科受診をご検討の方へ
池袋駅・東池袋周辺で円形脱毛症と目の症状について相談したい方は、脱毛が始まった時期と広がり、目の痛み・充血・かすみ、緑内障や眼圧を指摘されたこと、家族歴、これまでのステロイド治療の部位・方法・期間を整理してご持参ください。
池袋サンシャイン通り皮膚科では円形脱毛症の診断と治療歴を確認し、目の症状や既知の眼科リスクがある場合は眼科への相談を検討します。皮膚科で緑内障を診断することはできず、必要な検査と間隔は眼科で個別に決めます。
よくある質問
円形脱毛症があると緑内障になるのですか?
今回の研究は関連を示しましたが、原因と結果は証明していません。診断コードを用いた観察研究で、受診頻度、治療、年齢や持病などの影響が残ります。円形脱毛症だけで緑内障とは診断できません。
円形脱毛症の人は全員、眼科を受診すべきですか?
一律に全員が受診すべきという基準は、この研究や国内ガイドラインからは示されていません。目の症状、緑内障・高眼圧の既往、家族歴、ステロイド歴などを皮膚科と眼科へ共有し、必要性を個別に相談します。
ハザード比1.89は、発症率が89%という意味ですか?
違います。観察期間中に緑内障関連コードが現れる速さを2群で比べた相対指標です。個人の絶対的な発症確率が89%になるという意味ではありません。
ステロイド治療が原因だったのでしょうか?
全身性ステロイドを調整・除外した解析でも関連は残りましたが、剤形、部位、累積量、時間変化を完全には捉えられていません。無関係とも原因とも断定できず、自己中止せず処方医へ相談してください。
緑内障疑いを除いても結果は同じでしたか?
H40.0の緑内障疑いコードを除くとハザード比は1.68、95%信頼区間は1.01~2.78でした。方向は同じですが、推定幅が広く不確実性が大きい結果です。
子どもの円形脱毛症にも当てはまりますか?
この研究は18歳以上が対象で、子どもへ直接当てはめられません。小児の目の症状やステロイド治療中の確認は、年齢と治療内容に応じて主治医へ相談してください。
この記事の監修医師
吉井 恭平|池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
TOC Group
TOCグループ
医療法人御照会を中心とした医療グループ
- Chang H-C, et al. Alopecia areata patients are associated with increased risk of glaucoma: a multicenter, retrospective cohort study. Front Immunol. 2026;17:1870857.
- PubMed PMID: 42656655.
- PubMed Central full text PMCID: PMC13506891.
- Supplementary material: propensity-matched and sensitivity analyses.
- 日本皮膚科学会 円形脱毛症診療ガイドライン2024.
- 日本緑内障学会 緑内障診療ガイドライン第5版.