
Skin Disease Basics
授乳中のアメナメビル日本2例の母乳移行研究
2026年8月、日本の前向き多施設研究から、授乳期にアメナメビル1200mgを単回服用した2例の母乳中濃度が報告されました。推定された相対的乳児投与量(RID)は1%未満でしたが、登録12人のうち再発して投与されたのは2人、規定の採乳を完了したのは1人です。両例とも授乳を中断しており、乳児の曝露や安全性は評価されていません。研究で分かったことと、現在も変わらない国内電子添文の判断を分けて解説します。
Key Points
まず押さえたい、3つのポイント
登録12人のうち研究薬を服用したのは再発した2人で、規定の採乳を完了したのは1人だった
完全採乳例の平均母乳中濃度は508.3ng/mL、推定RIDは0.337%だった
最大濃度を用いた保守的なRIDmaxは2例で0.303%と0.923%だった
授乳中は処方済みのアメナメビルを自己判断で服用しないでください
再発性単純疱疹の電子添文では、次回再発分として処方された薬について、授乳中の女性は服用せず医療機関を受診するよう説明することとされています。今回の2例研究だけで、授乳を続けてよい時期や搾乳・廃棄の期間を決めることはできません。症状が出たら処方元へ連絡し、治療の必要性と母乳栄養の利益を個別に相談してください。
まず結論:母乳への移行量は小さい推定でしたが、乳児の安全性は未確認です
研究で推定されたRIDは1%未満でした。RIDは、母乳から乳児が受け取ると推定される薬の量を、母親の体重当たり投与量に対する割合で表す指標です。母乳への移行量を考える材料にはなりますが、それ自体が乳児への安全性を証明する基準ではありません。
今回の研究では母親が服用後48時間の授乳を中断し、乳児は研究薬へ曝露されていません。乳児の血中濃度、症状、有害事象、発達への影響は調べられておらず、『RIDが低いので授乳しても安全』とは結論できません。
研究は母乳中濃度に関する初期データを加えましたが、現在のPMDA電子添文を変更するものではありません。実際の服用と授乳継続・中止は、病気の重症度、治療の必要性、乳児の状況、母乳栄養の利益を確認して個別に決めます。
- RIDは移行量の推定指標
- 1%未満でも安全証明ではない
- 乳児曝露はなかった
- 現行電子添文に沿って個別判断
研究の設計:国内5施設、授乳中断48時間、予定した採乳は5時点
国立成育医療研究センターと4医療機関で行われた、単群・非盲検・介入型の前向き多施設研究です。出産後1年以内で、再発性単純疱疹に対してアメナメビルを使う授乳期患者を登録し、再発時に1200mgを食後単回投与しました。
研究参加者は服用後48時間の授乳を中断しました。母乳は服用後4、8、24、36、48時間を規定時点として採取し、任意の追加採乳も認めました。母乳と血漿中のアメナメビル濃度は液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法で測定されています。
研究計画は20人登録、うち5人で評価可能な母乳試料を得る想定でした。しかし実際は12人登録、再発して服用したのは2人でした。授乳中断の負担などから登録が難しく、計画した人数へ届かなかったことは結果の解釈に直結します。
- 国内5施設の前向き研究
- 1200mg食後単回投与
- 授乳を48時間中断
- 計画20人・評価5人に未達
解析できたのは2例:完全な規定採乳は1例だけでした
研究薬を服用した2人は、産後105日の35歳(口唇ヘルペス再発)と、産後202日の28歳(性器ヘルペス再発)でした。どちらも母親の安全性解析には含まれましたが、規定の5時点すべてを採乳できたのは後者の1例だけです。
1例目では規定5時点のうち3時点しか採取できず、24時間以内の試料は1点でした。そのため、24時間の母乳中濃度曲線下面積(AUC0–24)と平均濃度は計算できませんでした。2例を同じ精度のデータとして扱えない点が重要です。
2例目は規定5時点に加えて任意の2時点も採取しました。著者らはこの1例を主要な薬物動態解析集団としています。『2例研究』であっても、RIDの主要推定を支える完全データは実質1例です。
- 服用例は口唇ヘルペス1例・性器ヘルペス1例
- 産後105日と202日
- 1例は採乳不完遂
- 主要な完全データは1例
主な結果:完全採乳例の平均母乳中濃度508.3ng/mL、RID 0.337%
完全採乳例では、服用後0~24時間の母乳中AUCは12,200ng・h/mL、24時間平均濃度は508.3ng/mLでした。この値と乳児の標準的な1日母乳摂取量150mL/kgを用いて、RIDは0.337%と推定されました。
各例で観測された最大母乳中濃度は、1例目が服用3.5時間後の400ng/mL、2例目が4.17時間後の1,390ng/mLでした。最大濃度が1日続くと仮定した保守的なRIDmaxは、それぞれ0.303%と0.923%でした。
母親の血漿中濃度は服用約18~19時間後に測定され、876ng/mLと399ng/mLでした。母親に有害事象は報告されませんでしたが、人数が2人のため、まれな副作用を評価できる規模ではありません。2例目では48時間時点にも母乳中で薬が検出されました。
| 指標 | 1例目 | 2例目(完全採乳) |
|---|---|---|
| 最大母乳中濃度 | 400ng/mL | 1,390ng/mL |
| AUC0–24 | 算出不可 | 12,200ng・h/mL |
| 平均母乳中濃度 | 算出不可 | 508.3ng/mL |
| RID / RIDmax | RIDmax 0.303% | RID 0.337%、RIDmax 0.923% |
- AUCと平均濃度は1例のみ
- RID 0.337%
- RIDmaxは0.303%・0.923%
- 48時間時点にも検出
RID 1%未満の読み方:移行量の推定と、乳児毒性は別の問いです
RIDは母乳を介した推定乳児投与量を母親の体重当たり投与量で割った割合です。この研究では乳児の母乳摂取量を150mL/kg/日と仮定しており、個々の乳児が実際に飲む量を測った値ではありません。
低いRIDは母乳への量的な移行が小さい可能性を示します。しかし、乳児の月齢、早産、肝腎機能、薬の吸収、代謝物、特定の有害作用などで臨床的な意味は変わります。特定の数値だけで安全・危険を二分できません。
とくに今回は乳児が服用後の母乳を飲んでいないため、乳児の血中濃度や症状をRID推定と照合できません。授乳再開の時点や、搾乳して廃棄すべき時間を検証した研究でもありません。
- 乳児摂取量は仮定値
- 個々の乳児曝露を実測していない
- RIDだけで安全性を決めない
- 授乳再開時期は未検証
研究の限界:少数例、乳児曝露なし、企業関与をまとめて確認します
最大の限界は、登録12人のうち服用例が2人、完全な規定採乳が1人にとどまったことです。個人差、産後日数、母乳量、乳児の月齢、反復投与、帯状疱疹で用いる別の用法へ結果を広げることはできません。
両例とも授乳を中断しており、乳児の有害事象は曝露がないため評価されませんでした。母親の有害事象がなかったことも、2人という人数では一般的な安全性を保証しません。データはプライバシー・倫理上の理由から公開されておらず、請求に応じて提供される場合があります。
研究はマルホ株式会社が資金を提供し、研究計画、統計解析設計、母乳・血漿試料の測定に関与しましたが、データ管理の実施には直接関与しなかったと報告されています。共著者1人は同社社員で、他の著者5人は本試験に関する競合利益なしと申告しています。
- 完全データ1例
- 乳児安全性は評価不能
- 反復投与へ適用不可
- 企業資金と社員著者を開示
国内電子添文:研究公表後も、授乳継続・中止は利益を比べて検討します
PMDAで現在公開されているアメナメビル錠200mgの電子添文は、授乳婦について『治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討する』としています。動物実験(マウス)で乳汁中移行が報告されていることも記載されています。
再発性単純疱疹で次回再発分をあらかじめ処方する場合は、授乳中の女性は服用せず医療機関を受診するよう説明することとされています。今回の研究を読んで、処方済みの薬を自己判断で再開することはできません。
患者向医薬品ガイドも、授乳中または授乳している可能性がある人は医師へ相談するよう案内しています。治療しない不利益もあるため、単純に薬を避けるのではなく、診断、治療時期、代替薬、授乳継続の希望を診察で整理します。
- 治療利益と母乳栄養利益を比較
- 事前処方は授乳中に自己服用しない
- 患者ガイドも医師相談を案内
- 研究だけで添付文書を置き換えない
受診時に伝えること:症状の開始時刻、授乳状況、乳児情報、薬歴
口唇や性器の違和感、灼熱感、かゆみなど再発の初期症状が出たら、いつ始まったかを記録して処方元へ連絡します。帯状疱疹を疑う片側の痛みや水疱、顔・目・耳の症状、発熱、強い頭痛がある場合は早めの評価が必要です。
授乳中であること、乳児の月齢・早産歴・持病、完全母乳か混合か、最後の授乳時刻、搾乳の可否と希望を伝えます。母親の腎臓・肝臓の病気、妊娠可能性、併用薬、市販薬、サプリメントも確認します。
この記事から個人の服用時刻、授乳中断時間、搾乳・廃棄回数を決めないでください。皮膚科の診断と処方元の判断に加え、必要に応じて産科、小児科、薬剤師と相談し、母親の治療と乳児栄養の両方を考えます。
- 症状の開始時刻と部位
- 乳児の月齢・早産歴・持病
- 授乳方法と希望
- 薬歴・持病を共有
Ikebukuro Local Care
池袋で授乳中のヘルペス治療薬を相談したい方へ
池袋で皮膚科受診をご検討の方へ
授乳中に口唇ヘルペス、性器ヘルペス、帯状疱疹を疑う症状が出た場合は、薬名だけで判断せず、症状が始まった時刻、発疹の部位、授乳状況、乳児の月齢、持病、併用薬を医療機関へ伝えてください。処方済みの再発時用薬も、授乳中は自己判断で服用しないことが重要です。
池袋サンシャイン通り皮膚科では皮膚症状と治療の必要性を確認し、授乳継続の希望や乳児の状況を踏まえて個別に相談します。この記事は研究結果の解説であり、服用や授乳再開を一律に決めるものではありません。必要に応じて産科・小児科・薬剤師とも情報を共有します。
よくある質問
RIDが1%未満なら、授乳を続けても安全ですか?
安全とは結論できません。RIDは母乳への移行量を推定する指標ですが、今回の乳児は曝露されず、安全性は評価されていません。服用と授乳継続・中止は処方元へ個別に相談してください。
この研究は何人を調べたのですか?
12人が登録されましたが、研究期間中に再発してアメナメビルを服用したのは2人です。規定の5時点すべてを採乳できたのは1人で、主要なRID推定はその1例に基づきます。
48時間たてば授乳を再開できますか?
この研究から一律の再開時期は決められません。2例目では48時間時点にも母乳中で薬が検出され、乳児曝露も調べていません。処方元へ確認してください。
母親に副作用はありませんでしたか?
2例では母親の有害事象は報告されませんでした。ただし2人では一般的な安全性やまれな副作用を評価できず、添付文書の副作用・相互作用確認が必要です。
帯状疱疹で使うアメナメビルにも同じ結果を当てはめられますか?
そのまま当てはめられません。研究は再発性単純疱疹に対する1200mg単回投与で、帯状疱疹の通常用法とは投与量・日数が異なります。
再発時用に処方された薬を授乳中に飲んでもよいですか?
自己判断で服用しないでください。再発性単純疱疹の電子添文は、授乳中の女性は服用せず医療機関を受診するよう説明することとしています。
この記事の監修医師
吉井 恭平|池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
TOC Group
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医療法人御照会を中心とした医療グループ
- Koinuma S, et al. Amenamevir Transfer into Breast Milk in Patients with Herpes Simplex Virus Infection: A Brief Report of a Prospective Multicenter Study. J Dermatol. Published online August 31, 2026.
- Article PDF: DOI 10.1111/1346-8138.70474.
- Koinuma S, et al. Transfer of Amenamevir Into Breast Milk in Breastfeeding Patients With Recurrent Herpes Simplex: Study Protocol. Front Pediatr. 2025;13:1551335.
- PMDA アメナリーフ錠200mg 電子添文(2023年2月改訂・現行掲載資料).
- PMDA アメナリーフ錠200mg 患者向医薬品ガイド.