イソトレチノインの副作用と血液検査の必要性|医師が解説
- ✓ イソトレチノインは高い治療効果が期待できる一方で、乾燥症状や肝機能障害、脂質異常症などの副作用が報告されています。
- ✓ 治療開始前と治療中は、副作用の早期発見と安全な治療継続のために定期的な血液検査が不可欠です。
- ✓ 妊娠中の女性は服用が厳禁であり、厳格な避妊と妊娠検査が必要です。
イソトレチノインは、重症ニキビの治療に用いられる内服薬です。その高い効果から多くの患者さまに選ばれていますが、一方で様々な副作用が報告されており、安全に治療を進めるためには適切な管理が不可欠です。特に、肝機能や脂質代謝への影響を監視するため、定期的な血液検査が推奨されています。
イソトレチノインとは?その作用メカニズム

イソトレチノインとは、ビタミンA誘導体(レチノイド)の一種であり、難治性の重症ニキビ(尋常性ざ瘡)の治療に用いられる内服薬です。日本では未承認ですが、世界80カ国以上でニキビ治療薬として広く使用されており、特に他の治療法で効果が見られなかった場合に検討されることがあります[5]。
イソトレチノインの主な作用メカニズムは以下の通りです。
- 皮脂腺の活動抑制: 皮脂腺を縮小させ、皮脂の分泌量を大幅に減少させます。ニキビの主な原因の一つである過剰な皮脂分泌を抑えることで、ニキビの発生を抑制します。
- 毛穴の詰まりの改善: 毛穴の角化異常(毛穴が詰まりやすくなる状態)を正常化し、毛穴の閉塞を防ぎます。これにより、アクネ菌の増殖環境を改善し、炎症性ニキビの発生を抑えます。
- 抗炎症作用: ニキビによる炎症を抑える効果も報告されています。
- アクネ菌の減少: 皮脂分泌が減少することで、アクネ菌が増殖しにくい環境を作り出します。
これらの複合的な作用により、イソトレチノインは重症ニキビに対して高い治療効果を発揮すると考えられています。当院では、他の治療法で改善が見られなかった重症ニキビの患者さまに対して、イソトレチノイン治療をご提案することがあります。治療を始めて数ヶ月ほどで「顔全体の赤みが引いてきた」「新しいニキビができにくくなった」とおっしゃる方が多く、その効果を実感しています。
- レチノイド
- ビタミンAおよびその誘導体の総称です。皮膚の細胞分化や増殖、免疫機能の調節など、様々な生理作用に関与しています。ニキビ治療薬として外用薬や内服薬として利用されることがあります。
イソトレチノインの主な副作用とは?
イソトレチノインは効果が高い一方で、様々な副作用が報告されています。これらの副作用の多くは用量依存的であり、治療期間中に注意深く観察し、必要に応じて対処することが重要です。患者さまから初診時に「副作用が心配です」と相談されることも少なくありませんが、適切な管理と情報提供によって安心して治療を受けていただけるよう努めています。
乾燥症状
イソトレチノインの最も頻繁に報告される副作用は、皮膚や粘膜の乾燥です。これは、皮脂腺の活動を抑制する作用によるものです。
- 唇の乾燥・口唇炎: ほぼ全ての患者さまにみられる症状で、リップクリームなどでこまめな保湿が必要です。
- 皮膚の乾燥: 顔や体全体の皮膚が乾燥しやすくなります。保湿剤の使用が推奨されます。
- 目の乾燥: ドライアイの症状が出ることがあります。コンタクトレンズを使用している場合は、不快感が増すことがあります。人工涙液の使用が有効な場合があります。
- 鼻粘膜の乾燥・鼻血: 鼻の粘膜が乾燥し、鼻血が出やすくなることがあります。
これらの乾燥症状は、治療を継続する上で患者さまが最も「つらい」と感じやすい副作用の一つです。当院では、治療開始前にこれらの症状について詳しく説明し、保湿ケアの重要性をお伝えしています。特に、唇の乾燥がひどく、食事の際に痛みを感じるという患者さまには、ワセリンなどの油分の多い保湿剤を頻繁に塗布するよう指導しています。
肝機能障害
イソトレチノインは肝臓で代謝されるため、肝機能に影響を与える可能性があります。肝機能を示すAST(GOT)やALT(GPT)などの酵素値が上昇することが報告されています[2]。通常、軽度の一過性の上昇であることが多いですが、まれに重篤な肝機能障害を引き起こす可能性も否定できません。そのため、治療開始前と治療中は定期的な血液検査による肝機能のモニタリングが不可欠です。
脂質異常症
イソトレチノインは、血中のコレステロールや中性脂肪の値を上昇させることがあります[2]。特に、中性脂肪の著しい上昇は膵炎のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。脂質異常症の既往がある患者さまや、家族歴がある患者さまには、より慎重なモニタリングが求められます。当院では、問診の際に患者さまの家族歴を詳しく伺うようにしており、必要に応じて食事指導も行っています。
精神神経系の副作用
イソトレチノインと抑うつ、気分変動、自殺念慮などの精神神経系の副作用との関連性が指摘されていますが、因果関係は明確には確立されていません。しかし、服用中に精神状態の変化を感じた場合は、速やかに医師に相談することが重要です。当院では、治療開始前に患者さまの精神状態について確認し、服用中に変化があった場合はすぐに連絡するようお伝えしています。
催奇形性(妊娠中の服用厳禁)
イソトレチノインの最も重大な副作用の一つが、催奇形性です。妊娠中に服用すると、胎児に重篤な先天性異常を引き起こす可能性が極めて高いため、妊娠中の女性は絶対に服用してはいけません。また、治療期間中および治療終了後一定期間は、厳格な避妊が必要です。当院では、女性患者さまに対しては、治療開始前と治療中に複数回の妊娠検査を実施し、避妊の徹底を指導しています。男性が服用する場合も、精液中に移行する可能性は低いとされていますが、念のためパートナーの妊娠については注意を促しています。
その他の副作用
- 筋肉痛・関節痛: 特に運動後に感じることがあります。
- 頭痛: 稀に脳圧亢進(偽脳腫瘍)の症状として現れることがあるため注意が必要です。
- 光線過敏症: 日焼けしやすくなるため、紫外線対策が必要です。
- 視力低下・夜盲症: 稀に報告されており、視覚に異常を感じた場合は速やかに医師に相談してください。
- 消化器症状: 吐き気、腹痛などが起こることがあります。
- 脱毛: 稀に報告されています。
- 甲状腺機能への影響: ごく稀に甲状腺機能検査値に変化が見られることも報告されています[3]。
イソトレチノイン服用中は、献血が禁止されています。また、治療終了後も一定期間は献血を避ける必要があります。これは、輸血された血液中にイソトレチノインが残存し、妊娠中の女性に輸血された場合に胎児に影響を及ぼす可能性があるためです。
なぜ血液検査が必要なのか?その目的と頻度

イソトレチノイン治療において、血液検査は副作用の早期発見と安全な治療継続のために極めて重要です。特に、肝機能障害や脂質異常症は自覚症状がないまま進行することがあるため、定期的な検査が不可欠となります。実際の診療では、患者さまの安全を最優先に考え、血液検査の結果に基づいて治療計画を調整しています。
血液検査の主な目的
- 肝機能の評価: AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、γ-GTPなどの肝酵素値を測定し、肝機能障害の有無や程度を確認します。イソトレチノインは肝臓で代謝されるため、肝臓への負担を評価することが重要です[2]。
- 脂質代謝の評価: 総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪の値を測定します。イソトレチノインはこれらの脂質値を上昇させる可能性があるため、定期的なモニタリングが必要です[2]。特に中性脂肪の著しい上昇は膵炎のリスクを高めます。
- 腎機能の評価: クレアチニン、eGFRなどを測定し、腎機能に異常がないかを確認します。
- 血糖値の評価: 血糖値に影響を与える可能性も指摘されているため、糖尿病の既往がある患者さまには特に注意が必要です。
- 血球算定: 白血球、赤血球、血小板の数を確認し、骨髄抑制などの血液学的異常がないかを確認します。
- 妊娠検査: 女性患者さまの場合、催奇形性のリスクがあるため、治療開始前と治療中は定期的な妊娠検査が必須です。
血液検査の頻度
血液検査の頻度は、患者さまの状態、服用量、治療期間によって異なりますが、一般的には以下のスケジュールで実施されます。
- 治療開始前: 治療のベースラインとなる値を把握するため、必ず実施します。女性患者さまの場合は、この時点で妊娠検査も行います。
- 治療開始後1ヶ月目: 治療開始後の初期段階で副作用が出やすい傾向があるため、特に慎重なモニタリングが必要です。
- その後: 治療経過が安定していれば、1〜3ヶ月に1回程度の頻度で実施することが一般的です[1]。ただし、異常値が認められた場合や、患者さまの症状に応じて、より頻繁に検査を行うことがあります。
当院では、初回の血液検査で異常が見られなかった場合でも、治療開始後1ヶ月での再検査を必須としています。これは、治療開始直後に肝機能や脂質値が変動するケースをよく経験するためです。処方後のフォローアップでは、副作用の有無だけでなく、治療を継続できているか、効果の実感があるかを確認するようにしています。
| 検査項目 | 主な目的 | イソトレチノインによる影響 |
|---|---|---|
| AST (GOT) / ALT (GPT) | 肝機能 | 上昇する可能性 |
| 中性脂肪 (TG) | 脂質代謝 | 上昇する可能性 |
| 総コレステロール | 脂質代謝 | 上昇する可能性 |
| クレアチニン / eGFR | 腎機能 | 通常は影響なし |
| 血球算定 (CBC) | 血液学的異常 | 稀に影響の可能性 |
| 妊娠検査 (女性) | 催奇形性の確認 | 妊娠中は服用厳禁 |
血液検査で異常値が出た場合の対応は?
血液検査で異常値が検出された場合、その程度や症状に応じて適切な対応が求められます。当院では、患者さまの安全を最優先に考え、個別の状況に応じた柔軟な対応を心がけています。
軽度な異常値の場合
ASTやALT、中性脂肪などが軽度に上昇した場合、多くは一過性のものであり、経過観察で改善することがあります。この場合、医師の判断でイソトレチノインの服用を継続しながら、より頻繁に血液検査を行い、数値の変動を注意深くモニタリングします。同時に、生活習慣の見直し(食事内容、飲酒量、運動習慣など)を指導することもあります。例えば、中性脂肪がやや高めの患者さまには、脂質の多い食事を控えるようアドバイスし、次回の検査で改善が見られるケースも少なくありません。
中等度以上の異常値、または症状がある場合
血液検査の異常値が中等度以上に上昇した場合や、肝機能障害や膵炎を示唆する症状(腹痛、吐き気、黄疸など)が現れた場合は、イソトレチノインの減量や一時的な休薬を検討します。特に中性脂肪が500mg/dLを超えるような著しい上昇は、急性膵炎のリスクが高まるため、速やかな対応が必要です[5]。休薬後、数値が改善したことを確認してから、より少量で治療を再開するか、他の治療法への切り替えを検討します。また、必要に応じて内科など他科への受診をお勧めすることもあります。
妊娠検査で陽性の場合
女性患者さまの妊娠検査で陽性反応が出た場合は、直ちにイソトレチノインの服用を中止します。イソトレチノインは催奇形性が非常に高いため、妊娠が判明した場合は服用を継続することはできません。この場合、今後の対応について産婦人科医と連携し、患者さまへの適切なサポートを行います。
血液検査の結果は、患者さまの体質や他の服薬状況、生活習慣など様々な要因によって変動します。異常値が出たからといって、必ずしも重篤な副作用を意味するわけではありません。医師が総合的に判断し、最適な治療方針を決定しますので、自己判断で服用を中止したりせず、必ず医師の指示に従ってください。
イソトレチノイン治療を受ける上での注意点と患者さまへのアドバイス

イソトレチノイン治療を安全かつ効果的に進めるためには、患者さまご自身の理解と協力が不可欠です。当院では、治療開始前に詳細な説明を行い、患者さまが安心して治療を受けられるようサポートしています。
治療前のカウンセリングの重要性
治療を開始する前には、イソトレチノインの効果、考えられる副作用、血液検査の必要性、避妊の重要性などについて、医師から十分な説明を受けることが重要です。疑問点や不安な点は、遠慮なく質問し、納得した上で治療を開始しましょう。当院では、初診時に「どのくらいで効果が出ますか?」「副作用はどの程度出ますか?」といった具体的な質問を多くいただきます。これらの質問に対し、過去の症例や一般的なデータに基づき、丁寧にお答えすることを心がけています。
日常生活での注意点
- 保湿ケアの徹底: 皮膚や唇の乾燥対策として、保湿剤やリップクリームをこまめに使用しましょう。
- 紫外線対策: 光線過敏症のリスクがあるため、日焼け止めや帽子、日傘などで紫外線対策をしっかり行いましょう。
- 飲酒の制限: 肝臓への負担を軽減するため、治療期間中の飲酒は控えるか、量を制限することが推奨されます。
- 激しい運動の注意: 筋肉痛や関節痛のリスクがあるため、激しい運動は控えるか、体調を見ながら行いましょう。
- コンタクトレンズの使用: 目の乾燥が強くなる場合があるため、眼鏡の使用を検討するか、人工涙液などで対応しましょう。
- 脱毛や美容処置の延期: 治療期間中は皮膚が敏感になるため、レーザー脱毛やケミカルピーリングなどの美容処置は避けるべきです。治療終了後も、皮膚の状態が落ち着くまで一定期間待つ必要があります。
実際の診療では、治療を始めてから「肌が乾燥して化粧ノリが悪くなった」「日差しがいつもよりまぶしく感じる」といった声を聞くことがあります。これらの症状に対しては、具体的な保湿剤の選び方や、日焼け止めの正しい使い方をアドバイスし、患者さまが日常生活で困らないようサポートしています。
女性患者さまへの厳重な注意
妊娠の可能性がある女性は、イソトレチノインの服用は絶対にできません。治療期間中および治療終了後1ヶ月間は、確実な避妊を徹底する必要があります。当院では、治療開始前に2回の妊娠検査を行い、治療中も毎月1回の妊娠検査を実施しています。また、避妊方法についても詳しく説明し、必要に応じて婦人科受診を勧めるなど、多角的に妊娠防止に努めています。
まとめ
イソトレチノインは、難治性の重症ニキビに対して高い治療効果が期待できる薬剤ですが、その一方で様々な副作用が報告されており、安全な治療のためには適切な管理が不可欠です。特に、肝機能障害や脂質異常症などの重篤な副作用を早期に発見し対処するため、治療開始前と治療中の定期的な血液検査は極めて重要です。また、妊娠中の女性は服用が厳禁であり、厳格な避妊と妊娠検査が求められます。
イソトレチノイン治療を検討する際は、医師と十分に相談し、副作用のリスクと対策、血液検査の必要性について理解を深めることが大切です。適切な医療機関で、医師の指導のもと、安全に治療を進めていきましょう。
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よくある質問(FAQ)
- Eric Xia, Jane Han, Adam Faletsky et al.. Isotretinoin Laboratory Monitoring in Acne Treatment: A Delphi Consensus Study.. JAMA dermatology. 2022. PMID: 35704293. DOI: 10.1001/jamadermatol.2022.2044
- Guler Bugdayci, Mualla Polat, Hamdi Oguzman et al.. Interpretation of Biochemical Tests Using the Reference Change Value in Monitoring Adverse Effects of Oral Isotretinoin in 102 Ethnic Turkish Patients.. Laboratory medicine. 2018. PMID: 27346869. DOI: 10.1093/labmed/lmw024
- Belkiz Uyar, Aynur Solak, Ali Saklamaz et al.. Effects of isotretinoin on the thyroid gland and thyroid function tests in acne patients: A preliminary study.. Indian journal of dermatology, venereology and leprology. 2017. PMID: 27212279. DOI: 10.4103/0378-6323.182794
- Weh Kiat Gan, Gavin Fong, Jane Ravenscroft et al.. O07 To test or not to test? Isotretinoin blood test monitoring in children and adolescents in a teaching hospital over 2 years.. The British journal of dermatology. 2025. PMID: 41412980. DOI: 10.1093/bjd/ljaf465.007
- イソトレチノイン 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)