
Daily Clinic Notes
根拠から考える
オテズラを始めた方から、下痢やむかつきについて相談を受けることがあります。皮膚科医の間では「正露丸がよいらしい」と話題になることもありますが、直接の研究はあるのでしょうか。薬で抑える前にできることも含め、現時点の根拠を整理しました。
Key Points
まず伝えたい3つのこと
今回確認した範囲では、オテズラによる下痢に正露丸を直接検証した臨床研究は見当たりません。一般的な急性下痢の研究を、そのまま当てはめることはできません。
最も直接的な根拠があるのは、開始時に決められた漸増を守ることです。よりゆっくり増量する方法にも研究がありますが、標準外のため医師が判断します。
軽い症状は自然に落ち着くことがあります。強い、長引く、脱水が疑われる時は、自己判断で薬を足さず、処方医へ連絡して減量や休薬を含めて相談します。
木クレオソートを含む正露丸には、一般的な急性下痢を対象にした比較試験があります。しかし、オテズラ(アプレミラスト)による下痢に効くかを直接調べた研究はありません。そのため「効くことがあるかもしれないが、エビデンスで確立した対策とはいえない」というのが現時点での答えです。
- まず、処方されたスターターパックの漸増方法を守る。
- 軽ければ水分補給、食事の工夫、経過観察を基本にする。
- つらい時は処方医へ相談し、対症療法、一時減量、休薬を検討する。
- ロペラミドなども候補ですが、オテズラ服用者だけを対象にした比較試験はありません。
この記事の役割
本記事は「オテズラ服用中の下痢・悪心への対処」に絞った解説です。効果、適応疾患、飲み方、副作用全体については、本文中のオテズラ総合解説をご覧ください。
「正露丸がよいらしい」は本当なのか、少し立ち止まって調べました
オテズラは、乾癬、乾癬性関節炎、掌蹠膿疱症、ベーチェット病による口腔潰瘍などに使う内服薬です。注射ではなく内服で治療できる一方、開始直後に下痢、悪心、嘔吐、腹部不快感が出る方がいます。
先日、この消化器症状について皮膚科医同士で話している時に、「正露丸が意外とよい」という話題が出ました。実際に楽になったと話す方がいる一方、臨床経験と研究で確かめられた効果は分けて考えなければなりません。そこで、添付文書、適正使用ガイド、臨床試験、下痢止めの研究を順に確認しました。
下痢と悪心は、オテズラで比較的よくみられる副作用です
PMDAの電子添文では、下痢と悪心はいずれも5%以上の副作用に分類されています。日本人254人を対象にした第2b相試験では、16週までの下痢はプラセボ群1.2%、アプレミラスト20mgを1日2回服用した群8.2%、30mgを1日2回服用した群9.4%でした。
日本皮膚科学会のウェブサイトに掲載された適正使用ガイドでは、下痢や悪心の多くは投与開始後2週間以内に現れ、4週間以内に消失したとされています。数字は試験や集計方法で異なりますが、特に飲み始めに注意する副作用であることは共通しています。
電子添文には、開始時に漸増しなかった場合、悪心、下痢、嘔吐などの発現率が高くなると明記されています。スターターパックは単なる慣習ではなく、副作用を抑えるための大切な手順です。

消化器症状を減らすため、開始時は定められた順序で用量を増やします。錠数や飲み方を自己判断で変更せず、困った症状は処方医や薬剤師へ伝えてください。
なぜ下痢が起こるのか。腸の炎症ではなく、分泌の変化が関係すると考えられています
オテズラはPDE4という酵素を阻害し、細胞内のcAMPを増やすことで炎症に関わる物質を調整します。この作用は皮膚の炎症を抑える一方、腸管では塩化物イオンと水分の分泌を増やし、分泌性の下痢につながる可能性が指摘されています。
この説明からは、腸の動きを遅くする薬だけでなく、水分分泌を抑える薬が理屈に合うようにも見えます。ただし、作用機序が合うことと、オテズラの副作用に実際に有効であることは別です。患者さんを対象にした比較試験がなければ、効果の大きさや最適な使い方までは分かりません。
感染性胃腸炎など、別の原因もあります
オテズラを飲んでいる時に下痢が出ても、必ず薬の副作用とは限りません。発熱、血便、強い腹痛、周囲の流行、食事歴がある時は、感染症やほかの消化器疾患も考えます。
正露丸には一般的な下痢の研究がありますが、オテズラの下痢を調べたものではありません
木クレオソートを含む正露丸については、急性の非特異的な下痢を対象に、木クレオソートとロペラミドを比べた二重盲検ランダム化試験があります。123人を対象にしたこの研究では、最後の不成形便までの時間は両群で近い結果でした。一方、初日の軟便回数はロペラミド群の方が少なく、腹部けいれんの改善は木クレオソート群で多くみられました。
これは正露丸の成分に下痢への作用があることを示す間接的な材料です。ただし、対象は72時間以内の急性下痢であり、薬剤性下痢ではありません。研究著者には製造会社の所属者が含まれます。オテズラによる分泌性下痢に同じ結果が得られるとは言えません。
軽い下痢に役立つ可能性は否定できませんが、現時点では臨床経験と一般的な下痢の研究をもとにした対症療法です。オテズラ服用中の方へ一律に勧めるだけの直接的な根拠はありません。
正露丸は製品によって成分が異なります。木クレオソート配合製品の説明書でも、治療中の方は医師・薬剤師へ相談するよう案内されています。悪心、嘔吐、便秘、胃部不快感などが副作用として記載されており、むかつきが中心の方に自己判断で追加すると、評価が難しくなることがあります。
ほかの薬剤はどうか。実は「オテズラに直接効く」という研究はほとんどありません
専門家レビューでは、症状に応じてロペラミド、ラセカドトリル、ビスマス製剤、食物繊維、プロバイオティクスなどが候補として挙げられています。しかし、その多くは一般的な下痢の研究や作用機序からの提案で、オテズラ服用者を対象にした比較試験ではありません。
ロペラミド
腸の動きを抑える止瀉薬で、実臨床では対症療法の候補になります。ただし、オテズラによる下痢だけを対象に有効性を検証した試験は確認できませんでした。発熱や血便を伴う下痢では使い方に注意が必要で、便秘や腹部膨満が生じることもあります。
ラセカドトリル
腸管の過剰な水分分泌を抑える薬で、分泌性下痢という機序には合います。一般的な急性水様性下痢ではロペラミドと比較した研究がありますが、オテズラによる下痢の直接データではありません。また、国や地域で承認や入手状況が異なります。
ビスマス製剤、整腸剤、食物繊維
海外の専門家レビューでは候補として紹介されています。プロバイオティクスを使いながら服用を続けられた報告もありますが、自然に症状が落ち着いた可能性を分けられず、根拠は限定的です。ビスマス製剤にはサリチル酸を含むものもあるため、併用薬や持病を含めた確認が必要です。
悪心には別の考え方が必要です
むかつきが中心なら、止瀉薬ではなく、少量ずつ食べる、脂っこい食事を避けるなどを先に試します。海外レビューでは制吐薬も候補に挙げられていますが、オテズラに対する直接試験はなく、処方薬ごとの適応と副作用を踏まえて医師が判断します。
薬を足す前に、増量の速度を見直すという選択肢があります
アプレミラストを6日、13日、26日で増量する3群を比べた、128人のオープンラベル無作為化試験があります。有害事象は6日群50%、13日群41.3%、26日群25%、中止はそれぞれ10.53%、6.52%、2.27%でした。16週時点のPASI 75には統計学的な差がありませんでした。
この結果は、ゆっくりした漸増が副作用を減らす可能性を示します。ただし、単施設で盲検化されておらず、企業所属の著者も含まれます。日本の承認用法は6日間の漸増であり、13日や26日の方法を患者さんが自己判断で行うものではありません。
適正使用ガイドは、軽微な消化器症状なら経過観察、重い場合や改善しない場合は対症療法とともに一時的な減量や休薬を検討するとしています。何を追加するかだけでなく、処方そのものをどう続けるかを医師と相談します。
診察では、症状の強さと続けられる範囲を一緒に確認します
軽い軟便が数回あるだけなのか、水様便が繰り返して外出できないのかでは対応が変わります。オテズラ開始日、症状が出た日、便の回数、悪心や腹痛、体重変化、飲水量、ほかの薬を確認します。
- 水や経口補水液などで、少量ずつこまめに水分を取る。
- 脂っこい食事、アルコール、カフェイン、人工甘味料で悪化しないか確認する。
- 一度に多く食べず、負担の少ない食事を数回に分ける。
- 便の回数、服用時刻、食事との関係を1、2日メモする。
- 市販薬を使った場合は、製品名と回数を処方医へ伝える。
一時減量や休薬は有効なことがありますが、対象疾患、症状、腎機能、治療効果によって判断が変わります。特に重度の腎機能障害では、電子添文上も減量を考慮する必要があります。
我慢せず、予定を待たずに相談したい症状があります
重度の下痢は、電子添文で重大な副作用として記載されています。次のような時は、次回予約まで待たずに処方医または医療機関へ連絡してください。
- 水様便が何度も続き、水分を取れない。
- 尿量が少ない、口が強く渇く、立つとふらつくなど脱水が疑われる。
- 発熱、血便、粘液便、強い腹痛、繰り返す嘔吐がある。
- 短期間に体重が減った、ぐったりする、日常生活に大きく支障がある。
- 高齢、腎機能障害、心疾患などがあり、体調変化が大きい。
感染性下痢が疑われる場合、止瀉薬が適さないことがあります。「オテズラの副作用だろう」と決めつけず、経過と随伴症状を共有してください。
今回調べて、正露丸より先に説明すべきことが見えてきました
正露丸にまったく根拠がないわけではありません。一般的な急性下痢では比較試験がありますし、実際に楽になったと感じる方がいても不思議ではありません。ただ、オテズラによる下痢に限定すると、直接の研究は見当たりませんでした。
それより根拠がはっきりしているのは、決められた漸増を守ること、軽い症状は経過を見られること、つらければ一時減量や休薬を含めて治療設計を見直すことです。薬を一つ足して我慢してもらうより、続けられる治療に整える方が大切だと改めて感じました。
診察では「下痢があります」だけで十分です。回数や始まった時期を一緒に整理して、症状を抑える薬がよいのか、オテズラの飲み方を調整すべきかを考えます。
池袋でオテズラの副作用を相談したい方へ
池袋サンシャイン通り皮膚科では、乾癬や掌蹠膿疱症などの状態だけでなく、下痢、悪心、腹痛、体重変化、腎機能、併用薬を確認し、治療を続けられる方法を検討します。
受診時は、オテズラを始めた日、現在の服用量、症状が始まった日、便の回数、市販薬を含む併用薬が分かると整理しやすくなります。市販の止瀉薬を追加する前でも、気軽にご相談ください。
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オテズラと対象疾患を詳しく知る
薬の全体像、乾癬、掌蹠膿疱症、関節症状は、目的別のページで詳しく確認できます。
よくある質問
オテズラの下痢に正露丸は効きますか?
効く可能性はありますが、オテズラによる下痢に限定した臨床試験はありません。木クレオソートには一般的な急性下痢の比較試験がありますが、間接的な根拠です。使用前に処方医や薬剤師へ相談してください。
オテズラの下痢はいつまで続きますか?
適正使用ガイドでは、多くは開始後2週間以内に現れ、4週間以内に消失したとされています。ただし個人差があります。強い、長引く、脱水が疑われる場合は早めに処方医へ連絡してください。
ロペラミドの方が正露丸よりよいですか?
一般的な急性下痢では両者を比べた研究がありますが、オテズラの下痢に対する優劣は分かっていません。発熱や血便など下痢の原因によっては止瀉薬が適さないため、症状に応じて医師が判断します。
整腸剤やプロバイオティクスは役立ちますか?
補助的に使われることはありますが、オテズラによる下痢に対する根拠は限定的です。自然に改善する時期と重なることもあり、効果をはっきり分けることはできません。
下痢が出たらオテズラを中止すべきですか?
軽い症状だけなら直ちに中止が必要とは限りません。一方、つらい症状や改善しない症状では、一時減量や休薬が検討されます。自己判断で量を変えず、処方医へ相談してください。
ゆっくり増量すれば副作用は減りますか?
標準より長い期間をかけて増量した群で有害事象が少なかった研究があります。ただし標準外の方法で、研究にも限界があります。患者さん自身で変更せず、必要な場合は処方医が判断します。
監修医師メッセージ

吉井恭平 池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
- PMDA. オテズラ錠10mg/20mg/30mg 電子添文(2025年3月改訂).
- オテズラ錠 適正使用ガイド. 日本皮膚科学会ウェブサイト掲載資料.
- Ohtsuki M, et al. Apremilast in Japanese patients with moderate to severe plaque psoriasis: phase 2b randomized trial. J Dermatol. 2017.
- Safety and effectiveness of apremilast in Japanese patients with psoriatic disease: post-marketing surveillance. 2024.
- Dhoot D, et al. Three different titration methods of apremilast in plaque psoriasis. 2022.
- Multidisciplinary management of the adverse effects of apremilast. Actas Dermosifiliogr. 2021.
- Kuge T, et al. Wood creosote versus loperamide in acute nonspecific diarrhea: randomized double-blind trial. Clin Ther. 2004.
- Prado D. Racecadotril versus loperamide in acute watery diarrhoea in adults. 2002.
- 大幸薬品. 正露丸 製品情報・使用上の注意.