
Daily Clinic Notes
アトピー治療中に皮疹とリンパ節が悪化したデュピクセント前に考えたこと
長く治療しているアトピー性皮膚炎の方に、いつもと違う全身の皮疹と複数のリンパ節腫脹が重なりました。感染症を急いで評価しながら、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を含む別の病気を一度整理してから、次の治療へ進むことにした診療メモです。
Key Points
今回の診療で大切にした3点
痛みの強い急性リンパ節腫脹と下肢痛は、まず皮膚感染、膿瘍、蜂窩織炎などを同日評価する問題です。CTCLの精査を待つ理由にはしません。
強い皮膚炎だけでもリンパ節が反応性に腫れることがあります。一方、難治性で非典型的な皮疹と複数領域の腫脹が重なれば、まれなCTCLも除外候補にします。
デュピクセントがCTCLを新たに発生させる因果関係は確立していません。ただしCTCLが疑わしい間は導入を急がず、皮膚生検を中心に診断を組み立てます。
今回の方針は、デュピクセントへの切り替えをいったん保留し、急性感染の評価とCTCLを含む鑑別を並行して進める、というものです。
- 強い鼠径部痛・歩行時痛・下肢全体の痛みは、感染や膿瘍を優先して対面評価する。
- 血算・末梢血像、CRP、LDH、可溶性IL-2受容体、肝腎機能などを確認する。
- 代表的な非典型病変から皮膚生検を行い、病理像と免疫染色を臨床像に照らして評価する。
- 必要に応じてT細胞受容体遺伝子再構成、リンパ節エコー・CT、末梢血フローサイトメトリーへ進む。
- 感染症とCTCLの評価結果を確認してから、次の全身治療を選ぶ。
症例情報について
個人が特定されないよう、診療内容の本質に影響しない範囲で時期や経過の表現を調整しています。本記事は診断確定例の報告ではなく、鑑別と検査方針を考えた時点の診療メモです。
次の治療へ進む前に、いったん立ち止まった日
他院でアトピー性皮膚炎としてシクロスポリンを長期間内服している成人の方が受診されました。治療は約2年続いていましたが、安全性を確認する定期検査の状況が十分に把握できませんでした。まず現在の皮膚症状、服用量、腎機能、血圧、併用薬を整理し、デュピクセントへの切り替えを検討することにしました。
ところが、その後に全身へ赤い丘疹が多数出現しました。外用ステロイドを使った後も広がったという経過と、シクロスポリンによる免疫抑制を踏まえ、マラセチア毛包炎などの感染性毛包炎を候補にしました。ただし、外用後に広がったという時間的な関係だけで真菌症と断定することはできません。毛包に一致する単調な丘疹・膿疱なのか、直接鏡検などで裏付けられるのかを確認する必要があります。
抗真菌薬の外用で毛包炎様の皮疹は少し落ち着いた一方、顔のアトピー性皮膚炎に似た皮疹は著明に悪化し、発赤、腫れ、滲出液を伴うようになりました。さらに翌日には、両側鼠径部に歩くと痛むしこりが現れ、両側腋窩にも腫脹感があるとのことでした。
歩けないほどの鼠径部痛、下肢全体の痛み、急な赤みや腫れ、発熱・悪寒、膿、強いだるさがあれば、皮膚感染、膿瘍、蜂窩織炎などを想定して早めの対面診察が必要です。CTCLの検査結果を待ってよい症状ではありません。
まず考えたのは、皮膚炎に伴う感染と反応性リンパ節腫脹でした
鼠径部や腋窩のリンパ節は、それぞれ下肢や体幹・上肢の炎症に反応して腫れることがあります。強い皮膚炎では、皮膚病性リンパ節症と呼ばれる反応性の変化が起こることもあります。今回のように皮膚炎と毛包炎様皮疹が広範囲にあるなら、急に痛くなったリンパ節を直ちに悪性疾患と結びつけることはできません。
一方で、免疫抑制薬の内服中は、発熱が目立たない感染症もあります。顔面の滲出、びらん、膿疱、水疱、圧痛、急速な拡大、眼周囲症状を確認し、細菌感染やウイルス感染を含めて評価します。マラセチア毛包炎が疑われる場合も、診断をできる限り裏付け、範囲と重症度、肝機能、相互作用を確認して外用・内服抗真菌薬を選びます。
日本皮膚科学会・日本医真菌学会の2025年ガイドラインは、軽症では外用抗真菌薬を考慮し、重症例や再発例では内服を推奨しています。イトラコナゾールには比較試験がありますが、診断確認と相互作用の確認が前提です。
シクロスポリンを長く続けていること自体が、治療を見直す合図でした
シクロスポリンは、既存治療で十分にコントロールできない重症のアトピー性皮膚炎に有効な選択肢です。ただし日本の診療ガイドラインでは、通常3 mg/kg/日から開始し、5 mg/kg/日を超えない範囲で調整し、8〜12週間で終了する考え方が示されています。腎障害、高血圧、感染症、薬物相互作用に注意し、血圧、腎機能、薬剤血中濃度などを定期的に確認します。
したがって、約2年という治療歴があれば、ただ次の薬へ置き換えるのではなく、これまでの投与期間、休薬の有無、効果、安全性検査、診断そのものを一度整理する必要があります。
シクロスポリン使用中に皮膚T細胞リンパ腫が診断された症例報告はありますが、症例報告から因果関係や発生確率は判断できません。反対に、免疫抑制治療で皮疹が一時的に軽くなった経験もCTCLの否定材料にはなりません。治療歴ではなく、現在の臨床像と病理所見を合わせて判断します。
それでもCTCLを一度考えたのは、所見が一つではなかったからです
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)は皮膚のリンパ腫の一群で、代表的なものに菌状息肉症とセザリー症候群があります。皮膚リンパ腫そのものがまれであり、アトピー性皮膚炎の方にリンパ節腫脹があるだけでCTCLを強く疑うわけではありません。
今回立ち止まった理由は、治療に反応しにくい皮膚炎、長期の全身免疫抑制治療、いつもと異なる全身性皮疹、顔面の急な悪化、鼠径部と腋窩という複数領域のリンパ節腫脹が同時に重なったことです。個々の所見は感染や炎症でも説明できますが、全体を一つの診断だけで片づけない方が安全だと考えました。
診察で改めて探す所見
- 左右非対称で長く固定している紅斑・局面、触れると厚みのある病変。
- 臀部や体幹など非露光部を含む特徴的な分布、色むら、萎縮、脱毛。
- 皮膚の大部分が赤くなる紅皮症、手掌・足底の角化、強い難治性そう痒。
- リンパ節の大きさ、圧痛、硬さ、可動性、増大速度、複数領域への広がり。
- 発熱、寝汗、意図しない体重減少、全身倦怠感などの全身症状。
初期の菌状息肉症は湿疹やアトピー性皮膚炎に似ることがあり、視診だけで確定できません。皮膚科診察と病理を往復しながら判断します。
デュピクセントを急がなかった理由を、因果関係と切り分けます
デュピクセントは、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に有効性が確立した重要な治療です。CTCLの報告があるからといって、通常のアトピー性皮膚炎で不必要に避ける薬ではありません。
一方、アトピー性皮膚炎と考えられていた方がデュピルマブ開始後に皮疹の変化や紅皮症化を示し、その後CTCLと診断された症例が蓄積しています。ここから分かるのは関連が報告されているということまでで、デュピルマブが新たにCTCLを発生させる因果関係は証明されていません。もともと存在したCTCLがアトピー性皮膚炎に似ていた、治療経過の中で顕在化した、という可能性もあります。
最新の専門家コンセンサスは、因果関係は未証明と明記したうえで、非典型的または治療抵抗性の皮膚炎では皮膚生検、臨床病理相関、T細胞クローン性評価のハードルを低くするよう提案しています。菌状息肉症・セザリー症候群が疑われる、または確認された場合はデュピルマブを避けるとしています。
今回のように、導入前から複数領域のリンパ節腫脹と非典型的な全身皮疹があるなら、私は一度診断を整理してから開始します。これはデュピクセントを怖がるためではなく、適切な方に適切な診断で使うためです。
採血だけで安心せず、皮膚生検を診断の中心に置きます
日本皮膚科学会の皮膚リンパ腫診療ガイドライン2025では、問診、全身の皮膚と表在リンパ節の診察、皮膚生検、血液検査を組み合わせ、必要に応じて画像や遺伝子解析へ進む方針が示されています。
代表的な皮疹だけでなく、頭皮、臀部、手掌・足底まで確認。頸部、腋窩、鼠径のリンパ節を触診します。
CBC・白血球分画、目視の末梢血像、CRP、LDH、可溶性IL-2受容体、肝腎機能を確認。状況によりHTLV-1抗体なども追加します。
固定性・浸潤性など非典型的な病変を選び、H&EとCD3、CD4、CD8、CD7などの免疫染色を、病理医と相談して組み立てます。
病理と臨床で疑いが残る時の補助検査です。陽性だけで確定せず、陰性だけでも否定しません。
複数領域で明らかな腫脹が続く場合は、表在エコーや頸部から骨盤部のCTなどを検討。疑わしいリンパ節は専門施設で生検を考えます。
紅皮症や末梢血異常があれば、CD4/CD8、CD4/CD7、CD4/CD26などを含む末梢血評価を検討します。
LDHや可溶性IL-2受容体が正常なら大丈夫、とは言い切れません
これらは病勢や全身評価に役立ちますが、正常値だけで初期の菌状息肉症を除外する検査ではありません。診断は皮疹の経過、皮膚生検、免疫染色、必要な追加検査を合わせて行います。
一度の生検やクローン性検査だけで、白黒がつかないこともあります
初期の菌状息肉症は腫瘍細胞が少なく、炎症性皮膚疾患との区別が難しいことがあります。日本皮膚科学会も、1回の生検で診断がつかず、時期を置いて繰り返し生検が必要になる場合があると説明しています。
CD7の減少やCD4/CD8比の偏りは参考になりますが、それだけでCTCLに特異的ではありません。T細胞受容体遺伝子再構成も、炎症性病変でクローンが検出されることがあり、反対にリンパ腫でも検出されないことがあります。皮疹の写真と分布、治療前後の変化、複数部位の病理をそろえることが診断の精度につながります。
CTCLの診断は、視診、経過、病理組織、免疫表現型、遺伝子解析を総合して行います。疑いが続く時は、皮膚リンパ腫に詳しい病理医・専門施設への相談も重要です。
今回の方針を、診療の順番に並べると
強い痛み、歩行時痛、発熱、膿瘍、蜂窩織炎を先に確認します。
シクロスポリンの用量、期間、効果、血圧、腎機能、相互作用を確認します。
採血、病理、免疫染色を行い、必要なら画像やクローン性評価を追加します。
感染とCTCLを整理し、デュピクセントを含む治療選択を改めて検討します。
感染症の治療とCTCLの除外は、どちらか一方だけを選ぶ話ではありません。痛みの強い急性症状にはすぐ対応しながら、長く続く非典型的な皮疹の診断も並行して進めます。専門的な画像検査、リンパ節生検、血液評価が必要な場合は、対応できる高次医療機関へ紹介します。
「治らないアトピー」と決めたまま、次の薬へ進まない
今回あらためて感じたのは、治療を強くする前ほど、診断を見直す時間が大切だということです。皮膚炎が強ければリンパ節が反応して腫れることはありますし、今回もまず感染症が現実的な候補でした。
それでも、治療抵抗性、非典型的な全身皮疹、複数領域のリンパ節腫脹が同時に重なった時は、「アトピーが悪くなった」で終わらせず、まれな病気も一度候補に置く。デュピクセントを使わないためではなく、安心して適切に使うための確認です。
検査をして異常が見つからなければ、それも次の治療へ進むための大切な情報になります。逆に一度の生検で結論が出ない時は、皮疹の変化を写真で残し、必要なタイミングで再評価します。
池袋で、治りにくいアトピー性皮膚炎を相談したい方へ
池袋サンシャイン通り皮膚科では、薬の変更だけを先に決めず、現在の皮疹、これまでの治療、外用方法、感染の有無、かゆみや睡眠への影響を確認します。全身治療を始める前には、薬ごとに必要な安全性評価を行います。
急速に広がる赤み、滲出、強い痛み、発熱、複数のリンパ節腫脹がある場合は、予約時や受付時にその旨をお伝えください。皮膚生検や専門的な画像・血液検査が必要な場合は、連携医療機関への紹介を含めて診療を組み立てます。
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症状と治療を分けて確認する
アトピー性皮膚炎の治療全体、注射薬、感染症、受診準備を目的別に確認できます。
よくある質問
アトピー性皮膚炎でもリンパ節は腫れますか?
強い皮膚炎や皮膚感染に反応して、所属リンパ節が腫れることがあります。皮膚病性リンパ節症という反応性変化もあります。ただし長引く、増大する、複数領域にある、硬い、全身症状を伴う場合は、感染症や血液疾患を含めた評価が必要です。
痛いリンパ節なら、リンパ腫ではありませんか?
急に痛く腫れたリンパ節では感染や炎症がまず候補になりますが、痛みの有無だけで原因を確定・除外することはできません。周囲の皮膚所見、発熱、腫れの経過、大きさや硬さを診察し、必要な検査を選びます。
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)とは何ですか?
皮膚に生じるリンパ腫の一群で、菌状息肉症やセザリー症候群などがあります。皮膚リンパ腫はまれな病気です。初期には湿疹に似ることがあるため、非典型的で治りにくい皮疹では皮膚生検を検討します。
デュピクセントはCTCLを発生させますか?
現時点で、デュピクセントが新たにCTCLを発生させる因果関係は確立していません。一方、開始後に潜在していたCTCLが診断された報告はあります。導入前から非典型的な皮疹やリンパ節腫脹がある場合は、診断を再評価してから開始します。
皮膚生検を1回受ければCTCLを否定できますか?
1回で診断できない場合があります。初期病変は炎症性皮膚疾患と区別しにくいため、臨床経過と病理所見を照合し、疑いが続く場合は別部位や別時期の生検、免疫染色、遺伝子解析を検討します。
LDHや可溶性IL-2受容体が正常ならCTCLではありませんか?
正常値だけで初期CTCLを否定することはできません。血液検査は全身状態や病勢をみる材料の一つで、皮疹の経過、皮膚生検、免疫染色、必要な画像検査と合わせて判断します。
シクロスポリンを長く飲むとCTCLになりますか?
長期内服歴だけでCTCLとの因果関係を判断することはできません。ただし腎機能、高血圧、感染症などの安全性管理が必要な薬で、国内ガイドラインは治療期間と定期的な確認を重視しています。長期治療では診断・効果・検査状況を見直します。
監修医師メッセージ

吉井恭平 池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024.
- 日本皮膚科学会. 皮膚リンパ腫診療ガイドライン2025.
- EORTC Cutaneous Lymphoma Tumour Group. Dupilumab therapy in atopic dermatitis when cutaneous lymphoma is suspected: consensus recommendations. 2026.
- Amatore F, et al. Cutaneous T-cell lymphomas and dupilumab for atopic dermatitis: systematic review and expert consensus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2026.
- Park A, et al. Cutaneous T-cell lymphoma following dupilumab use: a systematic review. Int J Dermatol. 2023.
- Hristov AC, et al. Cutaneous T-cell lymphomas: 2023 update on diagnosis, risk-stratification, and management. Am J Hematol. 2023.
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A. 菌状息肉症ではどんな検査をするのですか?
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 皮膚のリンパ腫.
- 日本皮膚科学会・日本医真菌学会. 皮膚真菌症診療ガイドライン2025.
- Garces S, et al. Clinical, histopathologic, and immunoarchitectural features of dermatopathic lymphadenopathy. Mod Pathol. 2020.
- Paul CF, et al. Cutaneous T-cell lymphoma developing in a patient on cyclosporin therapy: a case report. Br J Dermatol. 2002.