
Daily Clinic Notes
ケナコルト注射後に少しへこんだ結節性ニキビ治療後の
皮膚萎縮を考えた
結節性ざ瘡へのケナコルト注射後、同じ場所に若干のへこみが生じたという相談がありました。よく知られた合併症ではありますが、「待つしかない」で終えてよいのか。ニキビ跡との見分け方、自然に戻るまでの経過、生理食塩水注入を含む選択肢を、最新の報告から整理します。
Key Points
最初にお伝えしたい3つのこと
注射後のへこみは、皮膚や皮下脂肪の萎縮で起こることがあります。
ただし、炎症が引いてニキビ跡が見えるようになった場合もあり、まず見分けることが大切です。
多くは数か月から年単位で改善します。
報告上は1〜2年で戻る例が多い一方、長く残る例もあるため、写真で変化を追います。
待つ以外では、生理食塩水注入が有望な候補です。
ただし根拠は症例報告が中心で、顔の小さなへこみに対する量や間隔は確立していません。
軽いへこみで、赤み・痛み・皮膚の傷などがなければ、まず注射した時期と見た目の変化を確認し、同じ条件の写真を残しながら経過を見ることができます。ステロイドによる皮膚萎縮は、多くが時間とともに改善します。早く何かしたい場合には0.9%生理食塩水の局所注入が候補ですが、標準治療として確立した方法ではなく、効果を裏づける研究も小規模です。
- 同じ部位への追加のステロイド注射は、状態を確認するまで避けます。
- 塗り薬や自己流のマッサージで、へこみ自体が確実に戻るという根拠はありません。
- 長く安定して残る場合は、ヒアルロン酸や脂肪移植などで補う方法もありますが、時期と適応を慎重に選びます。
「少しへこんで見える」と相談を受けて、まず考えたこと
先日、結節性ざ瘡に対してケナコルト注射を行った部位が、少しへこんで見えるという相談がありました。
炎症の強いしこりニキビは、痛みも目立ち方も大きく、できるだけ早く腫れを引かせたい場面があります。病変内へのステロイド注射は、その強い炎症を短期間で抑えるための選択肢です。米国皮膚科学会の2024年ガイドラインでも、大きなニキビ病変に対する補助的な病変内ステロイド注射が、診療上の実践項目として挙げられています。
一方、ステロイドには炎症を抑えるだけでなく、線維芽細胞の働きやコラーゲン、グリコサミノグリカンの産生を抑える作用があります。薬が病変の周囲へ広がると、皮膚や皮下脂肪が一時的に薄くなり、へこみ、色抜け、毛細血管の目立ちとして現れることがあります。
「一定の確率で起こる副作用なので仕方がない」と説明するだけでは、患者さんの不安には十分に応えられません。元に戻る見込みはどのくらいか、待つ以外にできることはあるか、どの段階で別の治療を考えるかまで伝える必要があると感じ、文献をあらためて調べました。
症例情報について
個人が特定されないよう、診療内容の本質に影響しない範囲で情報を整理しています。画像は医学解説用に生成したもので、実患者の診断写真ではありません。
ステロイドによる萎縮か、もともとのニキビ跡かを分けて考える
注射後にへこんで見えても、すべてがステロイドによる萎縮とは限りません。大きな結節性ざ瘡は、それ自体が真皮を傷つけ、萎縮性のニキビ跡を残すことがあります。また、治療前は腫れで隠れていた凹凸が、炎症が引いて初めて見えることもあります。
診察では、注射日、薬剤名・濃度・量、何回打ったか、へこみに気づいた日、色や血管の変化、もとのニキビの大きさを確認します。施術前後の写真があれば、炎症が引いただけなのか、萎縮が新しく進んでいるのかを判断しやすくなります。
どのくらい起こるのか。正確な確率は、実ははっきりしていません
ニキビへの病変内ステロイド注射後に、皮膚萎縮が何%起こるかを前向きに調べた大規模研究は見当たりません。濃度、量、深さ、部位、病変の大きさが異なるため、一律の数字を出すことが難しいのが実情です。
米国の皮膚科医療者100人を対象にした2021年の調査では、88.8%が「トリアムシノロン注射後の副作用で戻ってくる患者は1%未満」と回答しました。一方、萎縮を経験した場合の持続期間については、48.4%が6か月を超えると回答しています。
ただし、これは患者を前向きに追跡した発生率ではなく、医療者の記憶と再来院に基づくアンケートです。軽くて戻ってこなかった人は数えられず、反対に長引いた症例は印象に残りやすいため、「必ず1%未満」とは言えません。分かっているのは、頻度は高くないものの、起きると数か月以上気になる場合があるということです。
多くは戻りますが、数週間ではなく年単位で考えることがあります
ステロイド注射後の皮膚萎縮は、注射直後ではなく、数週から数か月たって目立ってくることがあります。2026年の系統的レビューに含まれた41人では、ステロイド投与から萎縮が現れるまでの平均は約10週でした。ただし、ニキビだけでなく、臀部への筋肉注射やさまざまな病変への局所注射を含む数字です。
過去の報告では、萎縮は数か月後から改善し始め、1〜2年で戻ることが多いとされています。一方で、5年以上残った症例も報告されています。いつまでに必ず戻るとは約束できませんが、注射後の浅いへこみを見つけてすぐ「永久的なニキビ跡」と決めつける必要もありません。
腫れが減ることで、もとの輪郭やニキビ跡が見えることがあります。
へこみ、皮膚の薄さ、色抜け、毛細血管の目立ちを写真で追います。
多くはゆっくり改善します。軽い例では処置を急がないことも合理的です。
萎縮かニキビ跡かを再評価し、適応があれば注入治療などを検討します。
同じ光・角度・距離で写真を残す方法と、処置日と変化を時系列でメモする方法は、改善しているかを判断する助けになります。
待つ以外の候補として、生理食塩水の局所注入があります
ステロイドは懸濁液として組織内に残り、結晶が局所作用を長引かせることがあります。0.9%生理食塩水を萎縮部へ注入し、結晶を再び分散させて排出を促すという考え方が報告されています。仕組みは仮説であり、完全には証明されていません。
2026年に公表された系統的レビューは、16報、41人、48病変をまとめています。生理食塩水注入後、40病変(83.3%)で完全改善、4病変(8.3%)で部分改善、4病変(8.3%)で改善なしと報告されました。治療間隔は1〜4週、回数は平均4.2回でした。
16報を統合。ニキビ後だけを対象にした研究ではありません。
自然回復や報告バイアスの影響を分離できません。
注入法、量、回数は報告ごとに大きく異なります。
数字だけを見ると期待できそうですが、含まれた研究の多くは症例報告・小規模症例集積で、無治療群との比較がありません。治療中に自然に回復した可能性や、うまくいった症例が報告されやすい影響もあります。レビュー内の1回平均注入量は12.9mLでしたが、臀部などの大きな病変が多く、顔の小さなへこみにその量を当てはめてはいけません。
生理食塩水注入は確立した標準治療ではありません
顔では血管や神経、腫れ、内出血、感染なども考え、少量ずつ慎重に判断する必要があります。この目的での注入は治療法・量・間隔が標準化されていないため、期待できる点と不確実性を説明したうえで個別に検討します。
長く残るへこみには、状態が安定してから別の治療を考えます
へこみが長く安定して残り、自然回復を待つ負担が大きい場合には、ヒアルロン酸注入や脂肪移植でボリュームを補った症例報告があります。これらは萎縮の原因を止める治療ではなく、輪郭を補正する考え方です。
ステロイドの作用がまだ続き、へこみが進行している段階で注入すると、必要量が変わったり、左右差が生じたりする可能性があります。また顔のヒアルロン酸注入には血管閉塞など、頻度は低くても重大な合併症があります。小さなへこみだから簡単、とは考えません。
フラクショナルレーザー、ポテンツァ、ダーマペン、サブシジョンなどは、残った病変が真のニキビ跡であると判断したあとに検討する治療です。早期のステロイド萎縮を、通常のクレーター治療と同じように傷つけて治そうとする根拠は十分ではありません。
自宅で無理に戻そうとせず、変化を見える形にする
市販の保湿剤やステロイド外用薬で、注射後のへこみそのものを元に戻せるという根拠はありません。皮膚が乾燥している場合の保湿は構いませんが、形を戻す治療とは分けて考えます。
次の注射では、効果と萎縮リスクを同時に小さく見積もらない
ニキビへのトリアムシノロン局所注射は、濃度、量、深さで効果と副作用が変わります。2021年の調査では、最も多かった濃度は2.5mg/mL、1病変あたりの量は0.05mLでした。ただし、これは比較試験で最適量を決めた結果ではなく、米国の実臨床アンケートです。
当院では、陥凹が生じるリスクをできる限り抑えるため、病変の大きさ・硬さ・部位に応じてケナコルトの濃度と注入量を調整し、周囲の正常皮膚や浅すぎる層へ薬液が広がらないよう細心の注意を払って施行しています。それでも皮膚萎縮のリスクを完全にゼロにすることはできないため、注射後の変化も含めて経過を確認します。
一般に予防で大切なのは、病変に合わせて必要最小限の濃度と量を選び、同じ部位への反復注射を慎重にすることです。過去に萎縮したことがある場合は、次の治療前に必ず伝えてください。
局所注射は、ニキビ治療のすべてではありません。繰り返す大きなしこりには、外用薬・内服薬を含むニキビ治療を整え、重症例ではイソトレチノインを含む選択肢も含めて、次の結節を減らす治療計画を考えます。
へこみだけなら緊急ではありませんが、処置した医療機関へ相談を
浅いへこみだけで体調に変化がなければ、救急受診が必要になることは通常ありません。ただし、進行しているか、皮膚が薄く傷つきやすいか、色抜けや毛細血管拡張があるかを確認するため、注射を受けた医療機関へ相談してください。
次のような変化がある場合は、単純な皮膚萎縮だけではない可能性も含め、早めに診察を受けます。
- へこみが短期間に広がる、線状に離れた場所まで伸びる。
- 皮膚が非常に薄くなり、傷、出血、ただれが生じる。
- 赤み、熱感、強い痛み、膿、発熱がある。
- 目の周囲で、見え方の変化、眼痛、強い腫れを伴う。
今日のまとめ:「仕方がない」で終わらせず、戻り方を一緒に見る
ケナコルト注射は、痛く腫れた結節性ざ瘡を早く落ち着かせることができる一方、狙った炎症よりも周囲へ作用すると、皮膚や脂肪を薄くしてしまうことがあります。よく知られた合併症でも、実際に顔へへこみが現れれば不安になるのは当然です。
今回あらためて調べて分かったのは、多くは時間とともに戻ること、そして待つ以外にも生理食塩水注入という選択肢があることです。ただし、生理食塩水注入を万能な治療として勧められるほど研究は十分ではありません。
大切なのは、注射による萎縮か、ニキビそのものが残した瘢痕かを見分け、変化を記録し、その時点に合った選択肢を話し合うことです。処置の効果だけでなく、起こりうる合併症と、その後にどう向き合うかまで含めて治療だと感じました。
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ケナコルト注射後のへこみでよくある質問
ケナコルト注射後のへこみは元に戻りますか?
多くは数か月から1〜2年ほどかけて改善すると報告されています。ただし、へこみの深さ、注射の濃度・量・深さ、部位で経過が異なり、長く残る例もあります。ニキビ跡との区別を含めて診察で確認します。
どのくらい待ってから治療を考えますか?
全員に同じ待機期間はありません。軽く、早期で、改善傾向があれば写真を残しながら経過を見ます。進行する、目立つ、生活上の負担が大きい場合は、早い段階でも生理食塩水注入などを含めて相談できます。
生理食塩水を入れれば必ず治りますか?
必ずではありません。2026年の系統的レビューでは多くの病変で改善しましたが、症例報告が中心で、自然回復との区別ができません。顔の小さな病変に適した量や回数も確立していません。
塗り薬や保湿剤でへこみは治せますか?
保湿は乾燥や刺激を減らしますが、皮膚・脂肪の萎縮によるへこみを確実に戻す塗り薬は確立していません。色の変化と形の変化は分けて評価します。
ヒアルロン酸やレーザーはすぐ受けてもよいですか?
へこみがまだ進行している時期は、補正量が変わる可能性があります。まず萎縮かニキビ跡か、状態が安定しているかを確認します。ヒアルロン酸には血管閉塞などのリスクがあり、レーザー等も早期のステロイド萎縮に有効とする十分な根拠はありません。
同じ場所にもう一度ケナコルト注射をしてもよいですか?
へこみや皮膚の薄さがある部位への追加注射は、状態を確認するまで避けるのが安全です。残るしこりが炎症なのか瘢痕なのかを診察し、外用・内服を含む別の治療も検討します。
監修:吉井 恭平
池袋サンシャイン通り皮膚科 院長
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本記事は一般的な医学情報です。診断と治療は、注射した薬剤・濃度・量・深さ、病変の部位、皮膚所見、経過、既往歴を確認して個別に判断します。生理食塩水注入や注入材による補正は標準化された治療ではなく、効果と安全性には不確実性があります。